「金蝉、いますか?」
そう、ノックもせず、執務室に入ってきたのは…天蓬元帥…
最近、やたらと、俺の視界を占領しやがる……
「お仕事中、でしたか…」
「…なんだ…?」
「あれ?用が、無きゃ来ちゃいけませんか?」
…ったく……この男は、何を考えてるのか……
「……わかんねぇな……」
「え?何が、です?」
……聞いてみればいい…そうだ、簡単な事だ……
「……チッ……!」
「あ、そうそう……」
――取ってつけたような、台詞…
天蓬の白衣のポケットから、何やら包みを取り出し…
「あ?」
――目の前に出されたモノに、俺は、反応を躊躇する。
「なんだ?」
「落雁です…」
――その見るからに甘そうな物体…
「…そんな、イヤそうな顔、しなくても……」
……ん?…なんだ……そのしょぼくれた顔は……??
「これを…どうしろと…?」
「…おみやげ、です」
「みやげ?」
「ええ、先日、下界に下りましてね…露天から、甘い匂いがして…
思わず買っちゃいましたv」
「…おめぇ……甘党、だったのか…?」
「いえ……?」
「…じゃあ…なんで……俺に、押し付けか?」
「…いやだなぁ……あなたに食べてもらいたかったから…じゃないですか?」
……こいつの笑顔は、苦手だ…
…胸くそ悪りぃぜ………
強引に連れ出された、中庭…
いつの間にか、天蓬の手には、酒瓶が…あった…
「…こんな真昼間から、酒か?」
「いいじゃないですか……一杯くらい、付き合ってくださいよ…」
……ここに…と、楓の大木の根元を指差し、隣へ座れと促され…
「……………」
暫し、無言のまま、酒を酌み交わす…
緑濃い日差しが、二人の上をゆらゆら、過ぎる…
見上げては、蒼穹…
「……ふっ……ん?」
俺は、自分と同じ匂いのするモノに唇を塞がれるのを感じた……
「なん………!?」
同時に、口いっぱいに広がる……砂糖の味……
「…天蓬……きさま……」
「…つれないなぁ…金蝉……口移し、って言うんですよ?これ…」
「…チッ……酔っ払ったのか?…お前が……」
「…ええ……酔っていますよ……あなたという美酒に…」
有無を言わせぬ口付けが、いつも……俺を翻弄する……
それは何度目かの触れあいで………
「……金蝉……」
「……あっ…!……ナニを……!?」
ゆらめく陽光に天蓬の指が、金蝉の首筋を撫でる…
背筋の妙な感覚に身をよじる、金蝉……
……逃げないで、ください……
……お、おい………
…もっと、口ににしてください…この、甘さを……
僕しか、見えなくなるくらいに……
…天……蓬……?
眼鏡を外した翡翠は、本気のソレで……
そのまま…緑の褥に押し倒される……
「……ナニ、する気だ……おい……」
「黙っててください……気持ちがいいんですから……」
……勝手な言い分だ……
と、悪態をついてみるが……すでに、抗う力は残っていなかった…
押し寄せる波に身を……任せて……
溺れる……快楽に……
END