「29.
おかえり 」
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「久保ちゃん……俺、執行部、やめる!」
「へ?」
それは、唐突な宣言。
『知力・体力・正義心』
それが、俺ら、執行部のモットーだったけど…
もぅ……俺には、それが……無いっ!!
…こんな俺に…正義なんて……言えやしねぇ…ッ!!
俺は、一人で、マンションへの道を歩いていた。
…なんで、俺、こんなとこ、居んだろ…はぁぁ……
溜息も漏れすぎて、窒息寸前……
事の発端って、
……はれ?なんだっけ……
自分でも理解不能なくらいの突発的行動。
「…俺、マンション、出たほう、いいかな……」
「時任……?帰ってないの…?」
午後の授業をふけた久保田が、帰った部屋には、時任の姿は、無かった…
「時任……」
時任のいない部屋……
「…う〜〜ん、寒い、ねぇ……」
「久保田は?」
「まだ、来てませんよぉ〜っていうか、学校も、休んでるんですよぉ〜〜」
桂木の問いに、藤原が、ベソを掻きながら、答える。
「…ふぅん……そっか……時任も、行方不明……だもんね…」
……このまま、執行部、は、終わり、になんのかなぁ……
部室の窓から、見上げた空は、何処までも蒼く透明で…
でも、少し、哀しそうに、見えた…
時任の居場所……
そう、思って、行き場所を知らぬ自分がいることに気づいた…
「……俺って……ダメダメじゃん……」
独り呟いても、いつもの突っ込みは、無し。
「……時任……ってば……何処………?」
その時……
ガタン……ッ!
屋根裏から、物音…?
「……ん?何?…このマンション、ネズミ付き??」
居間の天井の点検口。
微かに残る……指の跡……
「……あ…………」
気づくと、妙な位置に、脚立……
「……あ……あぁぁ………」
見上げて、独り笑いの久保田……
「ふぅん……そう……ねぇ〜〜?」
点検口に背を向け、ソファに座る……
煙草に火を点け、紫煙を吐き出す、天に向かって…
「……はぁぁ…今日は、いい天気だねぇ…サボリ日和って?うん……そう言えば…」
ちらり、天井を見て、声高に…
「…邪魔な時任もいなくなったし……藤原でも…部屋に呼ぼうかな…?」
…コトリ……再び、物音……
「…んでもって、二人で…………」
そして、計画…成功……vv
「……だ、だめだぁ〜〜っ!!」
天井に空いた、穴………
「何言ってんだよ!久保ちゃん!!俺を差し置いて、
藤原なんかと!ぜってー許さねーかんなっ!!」
「…おっ……時任、おかえり…」
「へっ…?」
久保田の自分へ向けられた微笑に、今のは、芝居だったと、思い知らされた…
「……てっ、てめぇ……くっ……汚ねぇぞっ!久保ちゃん!!」
「……って言ってもね……そろそろ、俺の方が、限界、だったし……」
そう、不敵な笑い……
「…降りておいで…時任…」
絡まる視線が、時任を降参させるには、十分の熱さで…
「……もう……行くなよ…何処にも…」
捉えられた肢体が、熱く、跳ね上がる……!
……ごめん……久保ちゃん……
俺…いや、なんだ……久保ちゃんが、俺以外の誰が、話したり……してんの見んの…
…こんな自分……イヤで…イヤで…しょうがねぇ……
だから……
……俺、お前の事、嫌ったり、しないよ…?
…………!?…く、久保ちゃん……?
時任が…イヤだって…言うんなら…もう、誰も…見ないよ…
……久保ちゃん……
…俺には、お前しか、いないんだから……
「時任稔!執行部、復活でっス!」
「はいはい…痴話喧嘩は、治まったってこと?」
「か、桂木ぃ〜〜!?」
桂木の視線は…時任の首筋に………
「うっ!?……あっあああああ〜〜っ!久保ちゃん!!」
…おかえり、時任……