「 指 」



(その指で、俺は…)

男は、呟く…

月光、差し込む、乱れたベッドの上。

横たわる、裸身…

紅い華を散らした、裸身…

「はい……喉、渇いたでしょう…?」

見上げた視線の先、微笑む瞳。

…先刻の濡れた瞳と、同じモノ。

笑みを含んだ言葉を紡ぐ、唇…

(…その唇で…お前は……)

再び、男は、回想する…

差し出された、グラス…

見知った色の硝子のグラス。

揺れる琥珀色の液体。

立ち昇るは、官能の香りか…

鼻腔を擽る香りが、夢を見せる…

グラスを抱く、指。

軌跡を残す、指先…

(…その指に……俺は…)

三度、男の脳裏に淫靡な時間が、蘇る…

酔いを孕んだ香りが、意識を混濁させる。

現在(いま)が、本当なのか。

過去(あのとき)が、本当、なのか。

グラスを抱いた指が、欲しているのは、

三蔵という一人の男の身体、のみ。

飽くなき欲望に晒された肌は、熱を帯び、

薄桃色に染まる…

幾度、その身にすべてを受け入れたとて、癒えぬ、渇き。

再び、這い登る、欲望に、紫暗の瞳が、濡れる…

「……来いよ…それとも……もう、ギブか?」

初めて、男は、己の意思をその唇にのぼらせる…

「……ご冗談でしょ?…あなたを目の前にして…そんな無礼な事、出来ませんよ…」

本意の見えぬ台詞を紡ぐ、唇…

すべてを云い終わらぬ唇が、今だ冷めぬ、熱を追いかける。

果てを知らぬ裸身が、跳ねる、シーツの波に…


抱けと、


もっときつく、壊れるまで、

いや、壊して欲しいのかも知れないと、男は、思う。


お前に


お前だから…と…



そして、もう一人の男は、囁く…

至上の微笑みと共に…






…あなたが欲しいというのなら

与えてあげます…

欲しいだけの…快楽を…

あなたが好きだと云った、この指で…

…無限の快楽を…

…さぁ…

脚を開いてください…三蔵……



End