閉ざされた空間。
エアコンのモーター音だけが、聞こえる部屋。
半開きのカーテンが、無様にレールから…堕ちている…
「……時…任……?……もう…いい……?」
濡れた声…
……快楽に溺れた、声…
息遣いだけで、答える、時任…
それは、すでに、声にならない、快感のナカで…
「…ハァ……あぁぁぁっ……!……き、来て……?
久保ちゃん……もっと、奥まで……」
汗で滑る太腿を抱え上げ、その中心に舌を這わせる…
青臭い匂いと共に跳ね上がる、その、肢体……
ソレは、久保田の理性を根こそぎ奪ってしまうには、十分で……
「……んっ……あぁぁ……も……いい…加減……限……界……」
苦しげな息の下から、哀願するのは、震える唇で……
時任が零す、体液を双丘の間に潜り込ませる、指……
…確かめるように、その狭い空間を抉じ開ける…
「………!?…あっ……!」
シーツが、揺れる……
濡れて……染みを作る……
…時任が、息を詰めた、刹那……
貫く、閃光……
…押し広げられる、感覚に…
時任は、身体を大きく、震わせ……
そして………
「……久保ちゃん!……目、覚ませよっ…………!!」
悲痛な声が、白い廊下に響く。
久保田の身体を貫通した、弾丸。
内臓を抉り取って、壊した、『生』
…透明の鎖につながれたまま、息をさせられ…
心臓を動かされ……
…時任の眼前にいるのは………
「……誰だよ………あいつ………」
感覚、すべてが、久保田のいない、空間を拒否していた。
失い、かけている、楔……
呼んでも届かない声に辟易し始めた頃…
……あの世と久保田を繋いでいたチューブが、外されていく。
確かな鼓動と共に……
「…奇跡ですね……」
医者の言葉が、まるで、冗談に聞こえてた、午後3時。
帰還した、久保田の視界を染めた色は…
「……ナニ、泣いてんの…さ……時…任……」
久保田の唇が、形作る名前に、酔って…
…堕ちた、瞬間……
宗方誠治――その名前、ひとつで、久保田の周りの影は、消えた――
「……もぅ……んな……無茶……すんな……よっ…………!?」
「……うん……」
脱ぎ捨てたシャツをシーツ代わりに沈み込む…
餓えて乾いた首筋は、濡れた唇を欲する…
散らす、朱印も鮮やかに…
緩やかな濡れた軌跡を残す……
窓は、開け放たれたまま、そこにある。
「…んっ……んんっ……久保ちゃん……まだ……」
「…せっかち…?…でも……ゴメン……我慢、出来ない……」
開いた胸の突起を舌の先で、触れ……確かな硬さを確認出来るまで…
「…う……ん………あっ……!…い、いや…だ……」
「…それって……ホンキ……?…」
「…久保ちゃんの……意地悪……っ!」
滑らせた手の平に、腰が、その指の行き先を期待して、跳ね上がる…
もっと、もっと……欲しい、と……
「…煩かったんだ……」
「…ん……?」
半ば、眠りに堕ちながら、久保田の問い、聞き返す。
「……ずっと……呼んでて、くれたっしょ……時任…」
「……あ…ぅん……かな……?」
引き寄せられた身体が、熱を持ち始めて、でも、気づかないふり。
声の無い、空間で。
音の無い、空間で。
動けなくなった、空間で…
どうやって、呼吸をしていたか、記憶の無い、時間で。
何故?
何故??
…問う、声が、ただ、そこにある…
確認した、熱は、確かで…
帰還した、熱は…不可欠なモノで……
「奇跡、ですね」
冗談に思えた医者の言葉にも、正論とした経過、あり。
…動脈をわざと、外したような貫通銃創。
本人のとっさの止血…
そして、なにより……生きる、意志……
久保田の心の確かな『生きる意志』
「…あぁ?んだよ……変な理屈……久保ちゃんは、殺したって死なねぇっ
てことなんだよ!…カッコつけてんじゃねぇったら……」
瞳の端、出現した、透明の液体、隠し、仰ぐ、太陽。
登り始めた太陽が、二人の肌を照らす…
「…カーテン、直さなくっちゃ…ね……」
「……うっ……俺のせいじゃ……ねぇ…」
性急な愛撫にしがみ付いた、手近にあった、布切れ……
「……ごめん……だって……」
「だって……?って……なんだ……よ……?」
不意に、耳元の吹き込まれた、悪言は……
……ねぇ……俺が、寝ている間……どうしてたの…?…
あっちのほう………
………………………!?!?ナニ、バカ言ってんだよっ!!
久保ちゃんってばっ!!…もう、死ねっ!!
……太陽に照らされた、久保田の身体の銃痕…
END