「 甘い夜 」




「架月っ」

真っ赤になったまま、渉は間近の裕壱を睨んだ。しかし、すでにその瞳には相手を降参させる力など無くなっていた。

「なんだよ…歯向かう気か?」

「か……」

再び口付けられ、言葉を封じられる。悪戯な指が渉の首筋を撫で上げる。角度を変え、何度も唇を合わせ、互いの熱を確かめ合う。ゆっくりと渉自身に触れる裕壱の指…

「んっ………」

急激に上昇した熱が渉から身体中の力を消していく。ふらつく身体を抱きかかえるようにして真新しい壁に押し付けた裕壱。

「大丈…夫…か…」

こんなときまで人の事を気遣ってんじゃねぇよ…と、支えを得た身体を今度は裕壱に押し当てた。自分も裕壱と同じだと言うことを示す為に…
「このまま…抱いていいか…?」

渉は、首を縦に振り、溜息をついた。しかし「このまま」の意味を渉は取り違えていた。裕壱は一向に自分を抱き寄せる気配は無く、すでに限界の近かった渉は焦れた声をあげた。

「なぁ……架月…」

わかっている、と濡れた瞳の裕壱が頷く。するりと渉自身から左足へ滑らせた手が膝の裏に回る。意図を測りかねて問おうとした時、裕壱の唇が強く押し付けられてきた。そして下肢への強い圧迫…身体の中に感じた裕壱自身…

「……あっ……んんっ…………っ」

突き抜けるような快感が渉の背中を走る。耳元で裕壱が甘い吐息を漏らす。

「……渉……好きだよ…」

裕壱の告白も耳に入らないほど渉は翻弄されていた。月の明かりだけの部屋で二人は互いの鼓動を混じり合わせていった……

もうすぐ新しい時間が始まる。二人の時間も色彩を変え、交じり合い二人だけの色を見つけるだろう。そして、それが二人の永遠の色になるようにと願いながら、二人はいつまでも抱き合っていた。

END