「破鏡」



「…三蔵、寝ぼすけだなぁ…飯、冷めちまう。俺、呼んでくる!」
「悟空!!」
「…な、なんだよ……そんな大声出して……ビックリしたぁ…」
「…あっ……す、すみません……いえね、夕べ、三蔵と遅くまで、 話し込んでしまったので…それで…起きてくるのが、 遅い…んじゃないかなっ…って……三蔵を付き合わせたのは、僕、ですし… …起こすのは…ちょっと……」
何時になく、饒舌な八戒を不審にも思わず、
「…ん!わかった、じゃ、三蔵の分も食べていい?」

………っつ!!……朝……か…?
すでに日が高くなり、朝、とは、呼べない時間…… 差し込む陽光に、覚醒を促される……三蔵… …ああ……そうか……夕べ、俺は……

……あなたが、欲しかった………

……意地悪……言わないで……くだ……さい………

繰り返す、欲望の波…すべてを任せた時間… 思い出すのは、八戒の声…… 何度も繰り返された、自分の名…… 耳元に…残る…声……
「…くそぉ……っ!…朝っぱらから、ナニ、考えてんだ……俺は……」
鈍い痛みに顔をしかめながらも、ベッドの上に起き上がる…
…なんとか、動けそうか……
溜息… それとは、意識せず、何度目かの……
俺は…ナニをしたかったのか……
気だるさが、三蔵を再び、ベッドの中へ誘ったが、 その、誘惑には、かろうじて、勝つことが、出来た……
「…空が……高いな……」
窓の外は、初夏のそれで、薄く長くなった雲が、 抜けるような青空を遠慮がちに横切っていた。

カチャリ……
食堂の扉が、開いた……
「…三蔵………」
そこには、八戒ただ一人。 なんとはなく、安堵の溜息……
「…あいつらは……?」
三蔵の視線は、床を這ったまま……
「……もう…昼近くです……もうすぐ、戻るんじゃないんですか?」
「……そうか…」
「…朝食、食べますか?…って言っても、昼食兼用になっちゃいますけど!」
八戒の細い指が、流れるような仕草で、 白いコーヒーカップに琥珀色の液体を流し込んでいく… その様から、視線を外せず、追いすがる……想い……
…俺は……あの指に……?
「…三蔵、コーヒー、入りましたよ?」
「………………!?…あ……ああ………」
温かそうな湯気の立つカップを口に運ぶ…苦い液体が、喉を焼いた……
「…あの………」
遠慮がちに、耳元に口を寄せてくる八戒…… それを黙って、受け止めた…三蔵……
…息が……熱い………?…
………顔色、悪いですね?…つらい、ですか……?
「…………………!?」
…クッ!!……この男は……!!
「黙れっ!それ以上、余計な事をぬかすとその額に、穴、開くぞ…?」
「あれ?違ったんですかぁ?……風穴通すには、まだ、寒いですから、遠慮しときます。 トーストで、いいですか?」
…ああ……いいさ……たまには……な………

「あ〜〜っ!腹減ったっ!!」
起きて来ない三蔵に業を煮やして、街へ遊びに行った悟浄、悟空。
「……って、てめぇ、さっき、肉まん食ったばっかじゃねぇかよっ!?」
けたたましい声が、扉の向こうで、した。
「…帰ってきたようですよ」

「……あ!起きたのか?三蔵!!」
主君の目覚めを素直に喜ぶ悟空 正面から、見た三蔵の色を正視出来ない…悟浄…
「…よぉ……寝ぼすけ坊主様……」
「……フン…」
………ケッ……ったく、いつもの『三蔵様』に戻ってやがる…… いいねぇ、単純な思考で……
独り、毒づく、悟浄だった……

揺れるジープの上、三蔵は、夢を、見ていた…… それは、もう何度も見ていたお師匠様との別れの場面…… 部屋中の血痕が、何かの模様にも見えて… 目の前の現実を受け入れられなかった、あの時…
…血に染まった、両手だけが、 もう、 二度と、 大事な人に触れられなくなってしまったことを…三蔵に……江流に、伝えていた……
…守れなかった、モノ、守れなかった、想い… 守らなくてもいいものが………欲しい…… 己の心が、壊れない…ように……
……強くありなさい、江流……
「…わかって……いる……」
眠りと覚醒の狭間で、伸びてくる腕を必死に捕まえようとした、三蔵…
引き寄せた、笑顔が…………
「…どうしました?夢、見てたんですか?」
「……八…戒…………?」
「いやだなぁ…なんて、顔、してるんです?…しっかりしてください!三蔵…」
「…あぁ………お前…だったんだな………」
「…僕が、どうかしたんですか?」
「…なんでもない…お前は、黙って運転してろっ!」
「それって……もう!僕は、三蔵一行のお抱え運転手じゃ、ありませんよ!
ひどいです…三蔵…」
そんな会話が、交わされた、荒野の真ん中で……
4人は、ただひたすら、西を目指して、走っていた…………

「…廃墟……?」
地図を辿り、ようやく着いた街には、人間の匂いが、しなかった。 血と死人と崩れ落ちた土壁の匂い……
「ひでぇ………」
悟空が、覗いた一軒屋には、腐乱した幼い兄弟が、 寄り添うように部屋の隅に、座っていた… …そこここに残る赤黒い染み…… 切り裂かれた傷に、白い蛆虫が、這い回っている…
「妖怪の仕業…ですか……?」
目を覆いたくなるような惨状に4人は、絶句していた… 道端に転がる死体は、切り刻まれ、自身の内臓を晒していた。強い腐臭を漂わせて…… 恐怖が、張り付いた顔、そのままで……
「…街の様子を探る、八戒…来い……」
「……はい…」
二手に分かれた三蔵一行、街の様子を探る…… しかし、目の前の光景は、変わらない… …瞳に映るのは、流れて固まった血の跡…無造作に落ちている、手、足……首……… 常人なら、正気を逸してしまうような、光景…だが……
刹那……!
「…三蔵……」
「…ああ……誰か……居るな…」
「…生存者でしょうか……それとも………」
「……前者は、あり得んな……ここまで、徹底的に破壊しつくしてやがるんだ… さしずめ、仲間に手柄を自慢しに…ってトコ、だろうよ……」
「…ですね……これは、紛れなく……妖気、ですから……」
物陰に身を潜ませた二人の耳に届いた会話……
「…クッククク……こんなに気分がいいのは、なんとかって坊主を 切り裂いたとき以来だなぁ…」 「ああ、あれな……確か、経文を奪いに行った時だったか?……」
「結局、あの経文は、あのメス狐が自分の物にしちまいやがったがな…… ま、俺も『三蔵法師を殺った妖怪』ってな、俺の名前を知らない奴は、 いなくなったがなっ!」
下卑た笑いが、三蔵の脳裏を犯していった……
…三蔵法師を殺った、だと… …経…文…?…それは……
「…三蔵…?……大丈夫ですか?…三蔵………」
「……そういやぁ、あん時、金髪のガキを取り逃がしてな… それだけが、汚点、といやぁ、俺の汚点だがな……」
……経文……三蔵法師……金髪の……ガキ………?…何が……汚点、だとぉ…?
「三蔵……三蔵!!」
八戒の呼ぶ声が、遠く、近く、聞こえる…
あいつらは、ナニを言っている?…誰を殺したと…?…誰を……

「…その逃がしたガキってのは、こんな面してたんじゃねぇのか?」
「三蔵!?何をっ!?」
止める間は、無かった…… 必死に、捕らえた身体は、いともあっさり、八戒の中をすり抜けていった… 妖怪の前に、立ちふさがる三蔵の顔は………狂気……
「…なっ!?」
震えが………八戒の身体を駆け抜けた…… 狂気の淵を歩き始めてしまった紫暗の瞳に対峙し… 伸ばしかけた腕さえ、先に、進めなかった………
……銃声……
連続した、銃声が、八戒の呪縛を解いた。 目の前で、銃を乱射している愛しい人の姿を視界から、逃すまいとして…… 光る両手の中の気功… 援護の為の一発、それすら…三蔵には…届かなかったのだ……
「邪魔をするなっ!!」
一喝と共に発射された銃弾は、八戒の右肩を…打ち抜いた……
「…ぐぁっ……っ!!」
……焼け付くような痛みが、右半身に走る……
「……三蔵……三蔵…やめて…ください…… ………三蔵!!…あぁぁぁぁ……誰か……誰か、三蔵を……止めてくださいっ!!」
すでにこときれているだろう、妖怪に馬乗りになり、 その顔、腹…殴り続ける、三蔵…… 妖怪の口からは、その度に、鮮血が、溢れる……乾いた大地を潤すように…… 三蔵の法衣が、真紅に、染まっていた……双肩の魔天経文すら………
「や、やめて…ください…三蔵………三蔵――――――――っ!!」


『邪魔をするなっ!!』

受け止めた熱さは、八戒の身体を、骨を抉り取った… 驚愕と狂気、 血と殺戮、 三蔵の上にあったのは、そんな、塵にもならない、醜悪な感情のみ。 捻じ込まれた焼けるような熱さが、八戒の視界を奪う。
…三蔵を…止めなければ…… ただ、その一心……… そして……… どうやって、ここまで、辿り着いたのか…
「…う……う…ん………?」
八戒は、いつの間にか寝入っていた自分を叱咤し、 目の前に横たわる、三蔵に触れた… …よかった……ココに、いた………

『三蔵……三蔵――――――――っ!!』
…振り返った顔の返り血が、額から、頬、顎に伝わり、落ちる…
… ポタッ、ポタッ………
『…三…………蔵……?』
ゆっくり、自分に向けられる銃口を見つめながら、 八戒は、再び、その両手に、力を込めた…… 意識が、混濁していくのを感じながら、八戒は、ただひたすら、 三蔵の姿を追い求めた… 鈍く、光る、紫暗の瞳…… あれは…束の間の……時間、だったのか……… ……宙を舞う、真紅の法衣が、砂埃の中に消えた……アノ、一瞬………
「……三蔵…戻って、来ますよ…ね?」
自分が放った気功で傷ついた三蔵を治療した、時間が、 なぜか、滑稽で、笑いが込み上げてくる……
「せっかちなんですよ…あなたは……あの妖怪が、 本当にあなたのお師匠様を手にかけたのか、確かめることさえ、 出来なかったじゃないですか……」
自虐的な思いに駆られた………それは…………


……お逃げなさい!江流!!

その優しい両手を広げ、光明三蔵法師は、妖怪の牙から、 身を挺して江流を…庇った…… ヒュゥ……
妙に甲高い音と共に天井にまで、吹き上った血飛沫…… それは、あたかも、赤い雨のように……江流の金色の髪を濡らした…
『……………!?…お……お師匠様ぁ―――――――っ!』
江流の叫び声は、闇夜の空に吸い込まれていったのだ……
……‥お師匠様……どうして、そんなに、悲しい顔を……? 何か…言ってください……私に…言葉を……かけてください…… 私は、もう………!!
……強くありなさい、江流…… あなたは、今夜から、玄奘三蔵法師と、なりなさい……… 俺は……そんなモノには……ふさわしくない……! 見てください!お師匠様っ!……俺の両手は………真っ赤だ……

……血は、洗い流せる…… そう、言ったのも、俺だ……そう、そうやって、俺達は、生きていくのだと…… わかっていた……理解していた……なのに………っ!!
…… 俺は………俺は…… ……もう、眠りたい………

「三蔵っ!!」
三蔵を眠りの中から、引きずり出したのは、八戒の声……
「………………」
「…ああ…よかった……目を覚ましてくれて……」
しかし…… その紫暗の瞳には、何モノも映っては、いなかった……
「…三蔵…?」
「…………………」
「……三蔵…………!!」
八戒は、確かに触れ合うことが出来たモノを再び、失ってしまったことを…知った…




「おい…八戒………」
この地に滞在して、すでに、1ヶ月が過ぎていた。
「あぁ、悟浄…なんです?」
洗濯の為に、浴室にいた八戒は、背後からの呼びかけに、振り向かないまま、答えた… 「肩の具合、いいのか?」
「はい…ご心配かけました…幸い、弾は貫通していましたから、治りは早かったです」
声音は、努めて明るく……
「…三蔵……は?」
その一言に、八戒の全身が、泣き出しそうだった…
「相変わらず…です……話さないし、何も見ない…… 食事を取ってくれているのだけが、救いです…」
「……そっか…」
「それより、悟空は、どうです?最近、顔、見えないですけど……」
「ああ…あのバカ猿か……もしかしたら、三蔵より、始末が、悪りぃかもしんねぇぜ……」
「…と、言いますと?」
ようやく、八戒は、手を止め、悟浄へ向き直った…
「…何にも、変わんねぇんだ……」
「……………………」
「いつもみたいに、大飯食らいで、バカみてぇに煩くてよ …ったく……なんだってんだ…」
「…悟浄……こんなこと、あなたに頼めた義理じゃないですけど、 悟空を、お願いします……」
「……なんだよ……他人行儀な台詞だな、それ………まかしとけよ……」
八戒の顔が、安堵で、微笑むのを見て …
…いいんだ……いいんだよ……これで……な…
「……長い、寄り道になりそうだな……八戒……」
「……そう…ですね………」
均衡、
今は、崩れてしまった、バランス…… 4つの魂が、行き着く先は、いったい、何処なのか…… 向き合う心が、閉ざしてしまった障壁が、幾重にも……
互いの見えない場所が、続く、この荒道は、終着駅へ向かっているのか?……

……青い空、橙色の紙飛行機……

お師匠様の……声が……聞こえない……

俺は、誰だ?…なんの為に、生きている?
…玄奘三蔵法師…

これが、お師匠様の遺言……

…俺は、生きているのか…?

… 誰かが……俺を…呼んでいる……?

…バカ猿じゃ……ねぇな………あいつみたいに、しつこくねぇからな…

俺を呼ぶ、もう一つの声は、

―――――――誰だ?



「何処へ、行くんです?」
「………お前には、関係無い……」
「………………!?…そう…ですか……もうすぐ、日が落ちます… 暗くならないうちに戻ってくださいね…」
輝きを失った、紫暗…… 一緒に消えた、自分(八戒)の影…
……もう、届かないの……ですか……?

まだ、続く、長い………寄り道………


「おい、八戒…」
「え?なんです?」
「……何杯、入れる気だ?」
…言われて初めて気づいた、5杯目の砂糖……
「……ああ………すみません……入れなおしますね……」
「………八戒…」
…そんな、顔、するなよ……頼むから……


その夜遅く、三蔵は、法衣を泥で汚して、帰ってきた……
「いったい、何処で、こんなに汚してきたんです?」
ベッドの上で、目が覚めている三蔵に向かって、抗議をするが、反応が、あるはずはなく…
冷たい水にさらす、両手、 汚れていく…目の前の水、汚水と化したモノを、翡翠の瞳が、映す… 毎夜、遅く帰る三蔵……決まって、泥に塗れた法衣を纏って……

……壊れた時間を縫い合わせることが、出来たなら… 溢れた水が、器の中には、戻れないように そんなことは、ありはしない… なのに…僕は、願ってしまう… あの人の視線を…あの人の匂いを……求めて…… 自らを掻き抱いても、この渇きは……満たされない…… あなたしか……あなたしか……いない…… …あなたを感じていたい… …想うだけで、欲望が、首を擡げる……
外の冷気に晒されながらも、熱くなっていく身体を持て余す……

カタン……

「……………!?悟浄!?」
物音、振り向いた先に、悟浄…
「…いつから……?……気づきませんでした…」
「そんなに…その窓からは、おもしろいモンが見れるのか…?」
「…あっ……そう…ですね……つまんない、かもしれませんね…」
そう言いながら、再び、窓の外へ視線を走らせる。 そこに求めるものは、無いというのに…… 諦め切れない想いに引きずられながら、それでも、まだ、平静を装う…
「…窓、閉めましょう…ね……もう、寒くなりました…し……」
1本の蝋燭だけに照らされた八戒の背中が、微かに揺れて、窓枠に寄りかかる……
「…もう……大丈夫ですから……寝ましょう……」
微笑んだまま、ベッドに潜り込む……空のベッドの隣……

……眠ったところで、違う朝が来るとでも思ってんのか…? 変わらない朝しか、待っちゃいねぇよ… お前は、違う朝を求めて、眠りに抱かれる……ってト…か?
「だったら……その相手が、俺だって、かまわねぇよな…?」
独り言、なのか…? 息を吐き出し、見つめる先に八戒の姿を捕らえ、後ろ手に入り口に戒めを与え、足を踏み出す… そして――辿りついた、場所にて、
……毛布ごと八戒を抱きしめる
―― その境界線の向こうで、八戒の身体が、大きく、揺らいだ……
「……泣くなよ……八戒………」
嗚咽を漏らす、八戒の唇に与えられたのは……
……しまい込んだ感情……
「……悟…浄……」
伸ばされた腕に縋りつく……
「…俺を利用しろよ……八戒……」
剥き出しの肩に微かな空気の流れが、纏わりつく……





「……三…蔵」
「じゃあな………」
八戒の呟く声を聞いていたのか、床に散らばる衣服を椅子の背に掛けながら、 黙って部屋を出る悟浄だった…




夕暮れ 前を歩く人を追いかけた八戒は、あの場所に着いた。 そう……三蔵が、狂ったように妖怪を切り裂いた…あの場所… 右手に握られた昇霊銃は、獲物を求めて、鈍く、輝いてた…… 辺りに妖怪の気配は無い、いや……生き物の気配など、皆無なのだ…… ただ、一人、三蔵が放つ、殺気だけが、その空間を満たしていた。
雨――――― 降り出した雨粒が、そこかしこを滑って、落ちていく…
「……三蔵…」
耳につく、雨音…… 蘇る、過去…… 色を変えながら、濡れていく、衣服。 白く埃を纏った無人の家が、洗い流されていく。 集まっていく雨粒が、発する音、流れて、トタンを叩く、やかましい音。
乾ききった大地が、雨を飲み干す、音。
音、音、音―――――
互いの視線が、そんな雑音の中で、交わった……
「…お前……か……」
張り付いた金髪が、額を覆い、三蔵の顔が、ひどく、幼く見えた…
まるで、迷子の子供のように…… 聞こえる、声………
「…泣いたら、いいです。誰も、見ちゃいませんよ…?」
「……………………!?」
「…………ね…?」
雨が、八戒の元に三蔵を連れてきた……
「…ぬか…せ………」
右手の銃は、懐へ… 天を仰いだ顔に容赦ない雨が、流れ落ちる……
「…三……蔵……!!」
後ろから、抱きしめた三蔵の身体は、少しだけ、冷たくて………温かかった……
「……帰りましょう……みんなのところへ……」
「……ああ…」
振り向いた三蔵の顔が、八戒に近づき……求めた、温もり…… しかし………
「…………………!?」
合わさった胸を押しやる、三蔵………
「……どう…………?」
腕の中の体温が、休息に冷えていくのを八戒は、感じた……
「……てめぇ……誰に………抱かれた……?」
「…………………………!?…三……!!」
振り払われた腕が、遠くに去って行く… 立ち尽くす八戒を残し、三蔵は、踵を返した……
「…そん……な………三…蔵……」
崩れ落ちた膝が、泥の中に、埋没していった………



求めている……この身体、すべてで……なのに… 所詮は、相容れない「性」なのか……
もう……遅いのか……俺の…………は………



End