「陽炎〜Heat Haze〜」



ゆらゆら、揺らめくは、あなたの影…

揺れて…濡れて…あなたの中へ…

…ゆらゆら、揺らめく、あなたの中の…陽炎……

「…だから、あの時、悟浄が、2枚目のカードを捨てなきゃ、

僕に勝てていたかも…という事、なんですよ?」

「…チッ……ったく、いつか…泣かせてやる…っ!」

「はいはい、期待しないで待ってますよ!」

「……悟浄、出来ねぇ事は、言うもんじゃねぇって…思うんだけどなぁ…」

「るせーっ!!てめーは、黙って肉まんでも食ってろっ!」

「えっ!?何処、肉まん!?」


ジープの上で、繰り広げられる、いつもの乱戦…

しかし、それに加わらぬ、三蔵、一人……


「どうしたんですか?三蔵…そんな苦虫を噛み潰したような顔をして…

お腹でも痛いんですかぁ?」

「……バカ猿と一緒にするな……!」






……昨日、お前は……


そう……昨日の宿で――――





「……八戒………!」
三蔵は、悟浄に口付けされている八戒を…見た……
「…や……やめてください!」
押しのけた腕が、小刻みに震えていた…
それが…どういう、意味、なのか……心の中に…黒い感情が、広がっていくのを禁じえなかった……

……あの時間……










「…おい…八戒……」


街の宿で部屋を取った三蔵一行…


「……なんですか?」


振り向き様……投げつけられた…唇……


「ど……どうしたんですか……?」

「…………………」

「……三蔵……?」


確かな意図を持った視線が、八戒を正面から、見据えていた…



「……俺が…シタイと……言ったら……おかしいか…?」

「…三…蔵…?」


それは、ふいで…


「ちょっ……ちょっと、待ってください…!…三蔵……っ!!」

「…イヤ……なのか…」

「そうではなくて…部屋、まだ鍵を掛けてませんから…」

「…………………!!」


はぐらかすような八戒の仕草に焦れたように……法衣を脱ぎ捨てる…三蔵…


「……本当に……どうしたん……!?」


乱暴に腕を引かれ、寝床に押し付けられる……

冷たい唇が、乾いたままの八戒の口内を蹂躙していく…

歯列をなぶられると…

それは、熱を呼び起こす、スイッチになる……








まだ、夕暮れ、

開け放ったままの窓

昼間の汗が、残る…身体……

それでも三蔵の腕は、止まらない……

性急なほどの愛撫に…

息が、上がり始める、八戒……


「……さ……三蔵……そんな…あなた……好きですけど……アッ……!訳を………」

「…煩い……口を…………閉じろ……」


再び、今度は…十分に熱を持った唇で…口付ける……

受け入れた熱さが、全身に痺れに似た感覚を呼び起こす……

唇を合わせながら、八戒の衣服を不器用に脱がしていく……


「される……のも…悪くはない…んですけど……やっぱり……」

「…不満……か…?」

「…いえ…自分なりにこの状況を……どう、楽しもうかと…思案中です…」

「…バカか……?……てめぇ………うっ……!?」


下肢に伸びた八戒の手が、三蔵の昂ぶりに手を添えた…

緩慢な動作で、扱き上げる指に、焦れたように、腰を揺らす…


「…お……おい……随分……楽しんでる……っ!……みてぇじゃ……ねぇか……」

「…ええ……ご名答……だって、あなたから、誘われたんですから…」

「……チッ……」


動きを早め、もっと、高みへと追い詰める…細い指……


「…はっ……八戒……!!いい……加減……!!」

「……わかり……ました……じゃあ……ちょっと……違った…ハァ……趣向で……」

「………………?」


ふいに、放り出され、潤む紫暗が、翡翠の色を撥ね付ける……


「…身体、ずらしてくれます……?……そう、僕の上に…なって……」


さっきとは、別の意図で、三蔵自身を自らの秘所に導く……


「……八戒……?」

「……あなたが…入って……ください……」


答えを待たず、脚を三蔵の肩に上げ、促す……


「………いい……のか……?」

「……今更…です……」


三蔵の喉が、大きい音を立てて、息を飲み込んだ……

すでに十分に濡れた部分に三蔵は、ゆっくりと身体を進めた…

初めての感覚に、それだけで、限界を向かえそうだった……


「……うっ!!……はぁ……」

「……いいです……三蔵……そう…いい……から………」


遠慮がちな動きに自ら、腰を突き上げる………八戒……





「はぅっ!?……あぁ……全部……入り…ましたね……?」

「……うっ……!……くぅぅっ…!!…は…八戒……っ!」



狭い空間に押し込められた欲望が、出口を求めて、喘ぐ……

律動を繰り返す、肢体は、その動きを止めることをせず、一気に貫く……



「…あっ!?んはぁっ!!……うっ…は……八戒……八戒……っ!!」



――白い閃光……





「……はぁ…ったく……」


八戒は、隣で寝息を立てている三蔵を見た。

少し…痩せたのだろうか……瞼に堕ちている影が、濃い……


「何が……あなたを……」



……僕、ですか……元凶は…… あなたは、知っている……何故か、そう、思います… 隠すことは、出来ないのだと…




「…でも………これって……」



…嫉妬、って言うんですかねぇ……ああ、喜んじゃ、いけない、ですけど…ね?









「ねぇ、三蔵……三蔵?聞こえて無いんですか?」

「………………」

「…いいんですか…?…昨日の事……」


聞こえぬふりをしていた三蔵の耳元で、意地悪く、囁く……


「…………………!?…八戒……」

「いやだなぁ……聞こえてるんじゃないですか……」

「……煩い……」

「…あれ?いいんですか?……さっき、悟空に

『夕方、三蔵の部屋から、変な声聞こえたけど、喧嘩でもしてたの?』と、

聞かれたんですけど……」

「……八戒っ!!」


助手席から、勢いよく振り向き、銃口を向ける…


「…うっわっ!……これまた、ご機嫌斜め、なんですねぇ……」

「…って、てめぇが、あおってんじゃねーかっ!!」


ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべながら、さらに低い声で、

耳元に息を吹きかけつつ……


「…お願いが、あるんですけど……出来たら……」

「……………うっ…!!」


三蔵の背筋に走る、冷たいモノ……


「…また…昨日みたいに……どうです?」

「…………!?…っっ!!八戒!…てめぇ……死ねっ!!」





……銃声が、響く、蒼い空の向こうへ……








……すみません……こんな風にしか……出来ない僕を……許して……くれますか…?





END