零れ落ちる、甘香から..



「さ、三蔵っ〜〜〜!?」
「……あ?」
澄み切った秋の空。 抜けるような、青空。 清清しい、風。
…そんな、朝の時間を引き裂く、八戒の悲鳴…
「……煩い……耳元で、騒ぐな…っ!」
「で、でもぉ〜〜三蔵〜〜」
「……くっ…!……だぁから…なんだっていうんだ…?」
「……ここに…」
八戒は、三蔵のこめかみに人差し指を当てる。
「……痛っ!」
「……ほらぁ………こんなに大きな『ニキビ』が……」
「…はぁぁ…?」
深刻気な声音は、『ニキビ』が、原因…?



「さぁ!これを!」

『出掛けてきますっ!』

脱兎のごとく、家を飛び出した八戒。帰宅後の腕に抱えられていたモノ。
『洗顔料各種』……
「これで、俺に、何を、しろ、と…?」
すうっと、紫暗の瞳が、細くなり……危なげな指が、懐をまさぐる…
「決まってます!洗顔ですっ!」
「………………ぁ……」
あっという間。 まさに……神業…
三蔵の金の髪は、後ろにひとつに束ねられ、ヘアバンドで額の髪を押さえ……
ブクブク………
「……そぉっと…そうそう、マッサージをするように、柔らかく…… あ!ニキビには、直接、触れないでくださいね?そこは、軽く、洗い流すだけで……」
「………………………」
そんな八戒の所業を黙ってさせている、三蔵の真意……は?
「三蔵!寝る時間です!」
「……ぁ??」
「睡眠不足は、美容の大敵!さあさあっ!」
「……って……お、おい、八戒、いくらなんでも……まだ、8時前……」
「僕に逆らう気ですかっ!?…こ、こんなに三蔵の事を心配している…僕を………」
ウルウル瞳攻撃をされては、ひとたまりも無い…
大人しく、寝室に向かう。
(……ったく……お前は………)
そして、一夜が明け……
「な、なんだ…?…これは……」
朝食のテーブルに置かれていたのは………
果物。
それも一日二日では、食べきれないほどの。
「……おい…………」
「どうです?おいしそうでしょう?朝早くに果樹園まで行って譲ってもらってきましたv」
そう、嬉々として、満面の笑みを浮かべている八戒が………
(……んだ……よ…………そんな顔………)
「僕の健康管理がダメだったばかりに、三蔵の肌に『ニキビ』なんて作ってしまって… すみませんでした!一晩、反省して肌の健康にはやはり、ビタミン、だと思いまして……」
そして、再び、向けられる、笑顔……
「……………………………!?」
「今が、秋で、よかったです。こんなにたくさん……」
「…………これでいい…」
「………え?」
赤く熟れた柿を手にし、八戒に渡す。
「……はいっ!」
……嬉しそうに……ナイフを丁寧に柿の中に、差し込む…
「……寄こせ…」
「まだ、全部、切っていませんよ?」
「……いい…」
立てた歯が、柔らかくなった柿の実に、沈んでいく……
口の端からは、甘い果汁が、零れ落ちる……
一滴、二滴…
赤い染みが、三蔵のシャツを汚していく……
「……三蔵……果汁は、染みになると、取れにくいんですよ…?」
「……そうか…?」
赤い実を噛み砕く様を見せ付けるように、ゆっくりとした咀嚼…
流れ続ける、甘い……果汁……
八戒は、その一点に視線が、釘付けになる…
息を呑む音が……朝の部屋に、響く…………
「……こっちも…うまそうだな………」
三蔵の瞳と同じ……紫色に果物……
連なる粒をひとつ、口に放り込む……
表皮に抱かれた、半透明の果実が、舌に絡みとられ、その身体を露わにする……
甘すぎて……べとつく、果汁を流しながら……
「……お前は……食べないのか…?」
「………え……っ?」
無造作に掴み取った粒を八戒の口に押し込む…
そっと下ろした歯列に触れる、柔らかく、甘い、感触……
まだ、唇に触れたままの三蔵の指が、口内に侵入する…
「……種……取ってやる……」
「……ぁ…………」
差し込まれた二本の指が、まさぐる感触に背中に走った…アノ、感覚……
「……さ…三蔵…………」
「……フッ…………」
……確信犯…。
三蔵の笑みに直感する…八戒……
「…あなたという人は……」
…絡みとるように……三蔵の指に舌を這わす……
きつく、音を立てて、吸い上げる……
「………………っ!?」
三蔵の頬に散った………紅。
「……もっと、味わわせてください……あなた…を……」
「………八戒…」
「…降参、します……あなたには……もう……誰も…かないません…」
零れ落ちたのは、八戒の笑み…
滴り落ちるは、想いの雫……
流れ落ちる、その液体を舌の上に摘み取れば、 それだけが、至上のすべてで 甘い 甘く香る あなたの中に
僕を……連れて行って
……溺れて、しまう、まで……


「……見ろ…」
掻き揚げた、金の髪の間から覗く、こめかみには、 すでにあの「忌まわしい」ニキビは、無く……
「…あれ?」
「……俺には……あんなもんより……お前が…よく……効くんだ……」
「…………えっ……!?」
症状を看る事に意識を囚われていた八戒が、その三蔵の言葉を聞き逃したのは、 言うまでも無く……
そして再び、その言葉を聞くまでに、八戒の孤軍奮闘の日々が続いたのは、 後日談として………
…その噎せ返る、甘い香りで 僕を 酔わせてください……永遠に……

END


「かるてけ屋」 久保田りょう様へ
我がHPの「プレゼント.キリリク」へ申し込んでくださってありがとうございます。
『秋の味覚満載』 内容は..(笑)なぜか、こんな結末に... 最後まで、笑いを取れなかった私の力量不足を
お許しくださいませm(__)m なにとぞ、お受け取りくださいませ... 素敵なキリリク、ありがとうございました。

管理人 MITSUKO