雲の行方



「…あれは…肉まん…ですかね…

ああ、いやだな…思考が、悟空化してしまったんでしょうか…

ええっと……あれは……!?…う〜〜ん、誰かに、似てます…そう……」

「何やってんだ?お前…」

「うっ!?…うわわっ!!」


初夏の蒼空に浮かぶ白い雲達…

見上げた先に、愛しい人の、顔を見て……



……びっくりした……あの雲が…あなたに『似てる』

そう、思ったばかり、だったのに……




「どうですか?悟空の様子は?」

「……ああ」


寝転ぶ八戒の横に腰を下ろし、煙草に火を点ける…


「あいつが…食べすぎで腹を壊すなんざ…青天の霹靂…だな……」

「はははは…ですね……」


会話が、途切れて、二人を包む風、光、青草の匂い……







「……いい天気……ですねぇ……」

「………ん……まぁな……」


短くなった煙草を大地に押し付ける…

少しだけ、熱さに震えた…?…大地……

束の間の休息、ゆっくり流れる、時間……







「……八戒……?」


長い沈黙の後、見やった人(八戒)は、短期契約の夢の住人に…


「……………………」


遠く、流れる雲が、形を変え、二人の頭上を通り過ぎる

何かを訴えているようでもあり、何も考えていないようでもあり…

ただ、時間だけが、二人の間に存在する、そんな、夢の時間…

隣の夢の住人の唇から、零れる寝息が、三蔵の耳元まで、届く…




……あの唇に夕べ…俺は………!




何度も繰り返す、言葉に、身体すべてで感じながら

溺れた、あの時間……

流れる雲のように、ただ、己の感覚のみを感じた……時…

風が、八戒の肢体を通り抜け、唇まで……乾かしていく…

…濡れた…八戒の唇…




夕べは……そうだった……



…見たい…



陽の光りの下で見たい…… 自分の名を呼ぶ、あの濡れた唇を…



そぉっと、屈み込んだ先の、半開きの唇に口付ける……


「…んっ…………」


微かな反応……

もっと、深くと、再び、重ねる…唇……

自覚出来ぬ、熱さが、身の内の湧き上がる頃……


「……そんなに……欲しいんですか…?」


契約破棄までして、戻ったのは……


「…は、八戒……!?」

「…顔……紅いですよ…?」













…やめ…ろ…

… どうしてです?

… あいつらが……いるだろ……?

そんな事……

…………!?何!!

…… 少しだけ……いいでしょう?…

……なんだ…?…す、少しだけ…だと?

…ええ……あの二人には、わからないように… こうやって……

……あっ……!!……


……相変わらず……敏感です…ね…あなたは……


……………………!?














蒼い空、白い雲、吹き抜ける風、

吐息、衣擦れの音、熱い体温……

すべてが、この時間の為に…

揺れる白い花、天に向かって伸びている青草、



……そして、地平線……







…僕らは、あの向こうに……向かっているんですね……
…お前なぁ……そんなとこ、触りながら…言う、台詞かっ!
どうしたんです?…今日の三蔵は随分、反抗的、なんですね……
…八戒…

…いい……もう、好きに……しろ……

…はい……言われなくても……







……八……戒……八戒……

何度でも…呼んで下さい……僕の名前を呼ぶ…… あなたの声が……聞きたい……!



end




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Sui様へ

キリを踏んでくださってありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
キリリクという事で、らしからぬ、三蔵を書いてみました。
ご希望に添えているでしょうか?

ぜひ、ご感想、いただきたく...

この度は、ありがとうございました..

管理人 MITSUKO