薬指の残り香
『一晩中、寝ないって選択もありだよな』
そんな言葉を実行してしまう、俺の恋人、架月裕壱。今は、隣で満足そうに寝息を立てている。さすがに一晩中、といかなかったけど…
っていうか、さすがにそれは…だろ? ったく…これじゃ最初の夜と変わらないよ…こんなに跡、残してくれて…まぁ、今回は許してやるよ…こんな時間、今度はいつかわからないから…さ。
「もう、朝、か…」
…長いようで短かった時間だったよなぁ。架月に旅行に行かないかと誘われてからいろんな事があって…前途多難って感じで…
「祥平さん…か…」
あんなにはっきりと宣戦布告されちゃ、かえって気が楽だったよな…俺が俺達がどうしたらいいのかもちゃんとわかる。うん、俺は大丈夫だ。
そして、俺達の関係が一筋縄ではいかない事もわかった。だけど、それは架月がいてくれたら絶対クリア出来る事だってことも。
俺は、絶対的な味方がいるんだから…な?そうだろ?架月…
『…渉……』
夕べは、架月に名前を呼ばれるたびにどんどん、身体が熱くなって…くそぉ…最後くらい俺が架月を…って思ってたのに…あれ?ここんとこ、赤くなってる…これって……あん時…精一杯の抵抗で架月にも跡、残してやれって…成功、してたんだ…
…なぁんだ……
… もっと、見てたいけど、いい加減、架月を起こそうかな…飛行機の時間は午後だよな…
今、何時だろ?
……痛っ…やっぱり、しばらく、立てないかも…
まったく…なんだってんだよ…この結果はぁ…一つしか違わないくせにエロいんだよ、架月は……どこであんな事…覚えてくんだか…キスだって…息が出来ないくらい…強く、か、絡ませてくるし……俺がちょっとでも…反応したら…もう、しつこいっ、てくらい攻めてくるし…俺、まだ架月と肌を合わせてるって思うだけでドキドキしちまうのに…あの架月の余裕のある顔が嫌いだ…いじわるで…どこまでもオレ様で……だけど…あの時は…
『…も…う…あっ……渉………』
あん時の架月だけは…好きだ……あ、あんな顔をさせているのが、自分だって…架月を…感じさせているのは…俺だって……わかる、から…… ヤバイ…細かいとこまで、思い出しちまった…
「……スケベ…」
「…えっ……」
か、架月っ。 起きて、たのか……
「ふぅん……渉くんは俺の寝顔を見ながら何を考えてたのかなぁ?」
…あ〜あ、また、その顔…何も考えてないよっ。さっさと起きろよっ。
「あれ?俺に言えないこと、考えてたのかなぁ?」
「な、なんだよ、架月っ。最後の朝の第一声がソレかよっ」
「だって…ここが、ほら……」
って、いきなりどこ触ってんだよっ。
「言い訳、出来る?」
少し、意地悪そうにだけど微笑みを含んだ架月の瞳が好きだ。この旅行の間に架月のいろんな顔を見ることが出来た。もっといろんな架月の顔を見たい。俺だけに見せる架月を…
「…架月が悪い…」
「俺が?どうして?」
「…それを俺に言わせるのかよぉ…」
「…そうだよな…世紀のいい男を独り占めしてるんだからな。藤井渉は」
「はいはい…」
「で、どうする?」
「何が?」
「このままで良いわけ?」
架月のそんな言葉が俺に向かって、また、温度が上昇しちまう…触れるだけのキスも俺の期待を煽るには十分で…
「って、飛行機、間に合わなくなるってっ」
「…いいから…このままでいろよ…気持ちいいんだから…」
…叶わねぇや…架月裕壱…だけど、いつか、俺だって…
「…少し…だけだぞ?」
「良く出来ました」
結局、沖縄帰りだというのに第一ボタンまでしっかり留めて帰宅する羽目に…
でもいいっか、別れても同じ気持ちでいてくれたから…
「会いたいな、架月――」
な、俺達、きっと大丈夫だ。これからもずっと……
END