other side



「…今日も、いい天気、ですねぇ…」
隣の三蔵からの、返事は無い。
いつもの事だし…僕も返事を期待して、 言っていることじゃない、 なのに、 最近…チリチリしたモノを感じるのは、 何故なんでしょうね……
独り言、みたいに空を見上げて
「今日もいい天気、ですねぇ!」

……ああ、そうだな…

そう、思っても口には、出さない…

言わなくたって、わかるだろう… それぐらい……

だが… そんな戯言にも…揺れる、何かが…
…気にくわねぇ…

後部座席の二人は、深夜に及ぶゲームのツケがまわって、 仲良く、ご就寝中…
こんな時は、無言のまま、ジープは、走る……
わかっては、いるのに…
僕の我侭が、頭を擡げる……
(…あなたともっと、話がしたい……)
なんて……

…バカ猿とエロ河童は、おねんね中か…… 静かでいいな……
八戒は……何か、言いたげな顔…だな…… 水を…向けてみるか…?
…いや…やめとくか…… こんなにいい天気だ… こいつと二人だけの…旅も…いいだろう…
たまには……な……

青空、蒼穹、蒼天、抜けるような、空……
晴れきった空を表現する言葉は、数々ある……
二人の眼前に広がるは、 この空は、西の果てまで、続く、海のように 一行の前に、横たわる……
ジープにかかる振動も穏やかな、舗装した道も 二人の為に、用意された、導路のようで……
だから、そんな空間だったからこそ、 ありえたのだろう、刻……

「…理由か……」
「なんです?唐突に…」
「いや……なんとなく、な…」
風に乱された前髪を掻きあげながら…言葉を紡ぐ…
「理由が、欲しくなったんですか?」
「…そう……だな……」
「僕は……」
「……………」
「『あなたがそこにいたから僕はここにいる』ってことじゃ、いけませんか?」
「なんだ?…その妙ちくりんな理由は…」
「……僕にもわかりません」
「…断定するな……」
「でも、本当ですから……」

ポツリ……

三蔵の右頬から流れ落ちたのは…?
「…三蔵……そんなに僕の言葉に感動したんですか?」
「……あん?なんだ、その定義付けは……」
「だって……」
(…泣いてるじゃないですか……言ったら…風穴が開いちゃいますかね…)
「八戒……みっともねぇから…拭け……」
そう言って、渡された1枚の布切れを凝視して、
「僕の何が、みっともない…と……?」
ジープを止め、三蔵を見やる、八戒。 突然の停止に怪訝そうに八戒を見やる、三蔵…
「「…なんで……」」
同時に発したのは、偶然で…… 互いの顔を見やり、頬に伝う液体の意味を知ろうと 口を開く……
が………
「あれ?……あれれ……?」
その液体の粒は、数を増し、それは、もはや、互いが想像していたモノの域を超えた。
「……狐の嫁入り…」
「…あ………」
八戒の言葉に、空を見上げる。 蒼穹は、変わらずなのに、雨の粒が、落ちてくる……
「…なんだか……」
「………………」
「すごく、得した気分です……」
「……ん…?」
「滅多に見られないんですよ…これって…それも、あなたと二人で…見られるなんて…」
後半の台詞は、小声で言ったつもりが……
「…なんだ…?…気色わりぃ、台詞……だな……」
そう、毒づく三蔵の顔には、拒絶の色などは、無い…むしろ……
(…そう言えば……そう、言ったな…こんな天気のことを……)

「…得した気分です……あなたと二人で見れて……」
『………ああ、俺も……な……』

そう、答えるつもりが……
今は……まだ、いいか………
先は、長い……しな…


青空に降る雨は、ほどよく、二人を濡らして、去っていった。 二人の間も濡らして…

… 想いが、果てに
互いを擦り抜け まどろむ 刻を 重ね
果てが 見える 今 
この時だけを ただ 共に あらん…


……言葉なんざ、必要ねぇだろう……お前には……

…わかってくれますよね…いつか……僕を……
本当の僕を……
…今は、このままでいい。この距離が、いいから……


END
雀礼院綺理矢様へのプレゼント.キリ番「2888番」でございます。
「気づかない互いの想い」+「狐の嫁入り」+「流れ」 この3つのキィワードを話の中へ.. というリクでございました。 特に「狐の嫁入り」という言葉は、当方、知らず..でして.. 勉強させて頂きました。
お気に召すかどうか、不安はございますが、 お受け取りくださいませ..
管理人 MITSUKO