Red Zone



「なぁ、斉藤。美柴、知らねェ?」
「……え……?」
――それは、二日前。
「くぅぅ〜〜〜っ!あと、少し……っ!!」
俺の手の中でジャスティスが(注:モビルスーツの名称byガンダムSEED) 完成しようとしていた。そう、あと必殺武器を持たせたら……
「……って、マンション、いないんスかぁ?」
「だから、電話……」
「あ、そっか……………!?でもっ!!GAME、明後日っ!?」
「…うん………」
「…それって……マジ、ヤバイんじゃ………?」
まるで、他人事のように聞いていた。 トキさんが、いない…?
どうして? まさか… ありえねぇ……
俺は、信じない……っ!!
だけど、やっぱり、現実で。
トキさんの部屋の郵便受けには、賞味期限の切れた新聞が、力なく、うなだれていた。
「…うっわ、冗談みたいな、ホント……」
トキさん………?
心当たり? 行きそうな所? 友達??
……知らないよ……そんなの……
俺らの関係って………
…なんだろ…?
「……こうなったら、大人しく、人身売買されっかぁ?」
「…冗談………」
「じゃあ、どうやって払う?…違約金……」
「……あ…………」
どっちの現実も現実味が無い。 俺は、どうしたい?
…トキ、さん………
「っていうか、中条さん、今度のGAME降りるつもりなんスかぁ?」
「…一対三で勝てる自信は、さすがにねぇ…」
「そんなぁ………ん?なんで、一対三なんですぅ?二対三の間違い…」
「…お前、ライダーキック、出来る??」
「…ぐっ…!!……中条さんのいけず……v」
「……って、誘ってねぇ…………」
噛み合わない会話を続けながら、陽の傾き始めた街の高層ビルの影に俺達は、紛れようとしていた。 ともかく、明日の命が、わかんねぇんだから……

ピリリピリリリ………

「……う…ん……?…あぁ??」
真夜中の着信。 俺は、携帯に飛びついた。 それは、トキさん専用の着信音だったからだ。
「トキさんっ!!!!」
「…………………………」
「トキさんっ!!何処居るんスかっ!?……トキさん!!」
返答が、無い……
「……トキさんっ!!」
俺は、もう一度トキさんの名前を呼んだ。
「…真昼の……月……………」
確かにトキさんの声だった。 唐突に携帯が切れた。 途切れ途切れの声…
「…緊急事態発生っしょ!!」
トキさんが、言ったメッセージ。 俺への、メッセージだ。
「…あそこっ!!」
壁のジャンバーを引っつかんで飛び出した都会は、白々しいほど、寒かった。


『…あれ?』
『なんスか?』
『……月』
『ああ、ホントっスね。なんだか、昼間の月って、違和感……』
『そうか…?……俺は、綺麗だと思う』
『ふうん……』


ステージの確認に行った先。 とあるビルの屋上から眺めたスモッグに覆われた空。 その日は、俺達の上に、真っ白い月が出ていた。 その月を綺麗だと言って、トキさんは、暫く空を見続けた。 その横顔が、月に融けてしまいそうで…
俺は、思わず………
…トキさんを……抱きしめていた……
驚いたように跳ね上がったトキさんの鼓動を聞きながら、俺は、涙を流していた。 そんな俺の頭を優しく撫でながら……
触れた、首筋に濡れた唇の感触……
…俺は、身体が熱くなるのを止められなくて……
トキさんを抱いた腕に…力を込めた………
最後には、互いの鼓動が、重なってしまうくらいに……



走った 走った、! もう、ダメ………

「トキさんっ!!」
見覚えのあるビルの非常階段を一気に登る。 酸素不足による、窒息死寸前に辿り着いた屋上。 身体ごとぶつかった鉄製の扉に負けながらも真昼の陽光を両目で受け止めた。
「……トキ……さん……?」
俺の目の前のあるモノは、何……?
埃と泥に薄汚れたコンクリートの床に広がる、紅い絨毯。 その中央に横たわっているのは…?
…剥き出しの肩が、紅い絨毯に同化している…
まるで、葬列のように、雪が、 真っ白い雪が、降り出した。
「…な………に……?」
俺は、目の前の情景を受け入れられず……
固い床を思い切り、蹴った………

――コマ送りのようにしか、あれからの時間を俺は、覚えていなかった。 気がつくと俺は、病院のベッドにトキさんと並んで寝ていた。
――なんで? ――どうしたんだっけ?
――なんか、忘れてねぇ…?
「……………………!?」
俺は、飛び起きて、トキさんの胸に耳を押し当てた。
トクン…トクン………
規則正しい鼓動を感じる……
「……はぁぁ……生きてた……」
「……って、お前、心配する順番、間違ってねぇ?」
「……あ゛!?」
てっきり、病室には二人きりだと思い、あと少しで……
…kiss、するとこだった…/////
「そ、そうだよっ!!今日何日っ!?GAMEはっっ!!!」
「そうそう……それが、順当……」
中条さんが言うには、いい加減トキさんを捜すにも飽きてきた頃、ジャッジマンから連絡があり、
『AAA(ノーネーム)の皆様にご連絡です。今回のGAMEに不正が行われたので、 不戦勝ということになりました。尚、他のお二方は、病院に収容いたしました』
「……だってよ」
「……そっか…」
不戦勝?その言葉に何か、策略めいた感じがしたけど…
そんときの俺にはどうでもいい事だった。 俺の傍にトキさんがいる、ただ、それだけで…
「…じゃ、俺、帰るわ。彼女、待たしてんで……」
「…あ、うん………」
中条が、出て行った病室は、また、静かになって…
俺はまた、トキさんから目が、離せなくなった。 左胸に血の滲んだ包帯が巻かれている。 刺された、んだろうか……
それとも、銃…?
あんなに出血してたんだ……きっと、すごい傷だったんだ……
でも、どうして……?
…聞いたら、答えてくれるかなぁ……トキさん……
取り留めない想いが、俺の頭を走り回る…

「…早く、目、覚まさないかなぁ……トキさん………」

………早く、声、聞きたいよ…… ねぇ、トキさん………


………to return story………?