「添い寝」



床一面に広がる、書類…



「…んっ…!もう、こんな時間か…」

ユダが壁の時計をみやる。

「…あっ……気づきませんでした…」

シンもまた、書きかけの書類から離し、ユダの横顔を見つめる…

「今夜はこの辺にしておくか」

「そうですね…」

六聖獣の長としての雑務は多い。

地上の同属を支配しながら、天界での仕事も多々あるのだ。

それをいつも当然のように手伝うのが、シン。

今夜のように二人、時を忘れて仕事に没頭することは稀では無かった。

「…お茶を入れましょう」

シンの細い肢体が優美な仕草で椅子から立ち上がる。それを無意識のうちに目で追うユダ。


「…お前と出逢って、どれくらい経つのかな…」

「…えっ……?」

独り言のようなユダの言葉に思わず振り向く。そこには、真っ直ぐなユダの視線が、あった…


「…………ユダ…」

「いや…こうしてお前といると…天界の創世記より、共にいた、そう、思ってしまうのだ」


「…それは……わたしも……同じ思いです…」

「…そうか………」

言葉少なく、想いを話すユダ。

そのひとつひとつがシンの胸に暖かい刻印を残す…たとえようも無い、甘さと共に…


「…お茶が…冷めてしまいました……い、入れなおしてきます…」

己に向かうユダの視線に息苦しくなり、その場を離れるシン…その頬は紅潮し、鼓動は高鳴っていた…


(…あなたの言葉はいつもわたしを包んでくれる…)





「…ユダ、お茶が入りまし……」

居間に戻ったシンの視線の先に、ソファに横になって瞳を閉じたユダが居た。


「…ユダ…?」

(…眠ってしまったのですか…?)

そっと、テーブルに二つカップを置く。そして、ついとユダの傍らに立つ。

見下ろしたユダの唇からは、微かな寝息…

「…連日の執務では、疲れてしまいますね…」

見つめる視線は自愛で満ち溢れ、シンは時を忘れて、ユダの寝顔に見入った。

「…ん……」

微かな寝言に我に返り、寝室から毛布を運ぶ。シンはもう一度、眠るユダの側に座す。


「…このまま…朝が来なければいい……!」

衝動的な感情は、小さな口吻けになった…

「…ユダ………わたしのユダ…あなたが…好きです……!」

それは、初めて「音」にしたシンの想い。

「…今夜はこのまま…あなたの隣で……」

時間は、確実に過ぎて、もうすぐ、朝が二人に訪れる。

だが、今は、このままで……

シンは願った…

もう少し、時間を下さい、と……

-Powered by HTML DWARF-