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「どうしたんです!?三蔵っ!」
八戒の目の前に立っているのは、血まみれの三蔵……

「…で…あの生臭坊主、どうしたって?」
「…ええ……」


『……煩せぇっ!触るなっ!』
『でも、三蔵!そんなに、血が……』
『…くっ…!!……いいから、てめぇは、引っ込んでろっ!!』


「……一喝のもとに…?」
「…ええ………」
「ま、そんなに簡単にくたばったりは、しねぇだろーよ、本人がいいって言ってんだから、 ほっとけよ…」
「……悟浄…」
「じゃ、俺は……さっきのおねぇちゃんと……よろしくvv八戒?」
左手をヒラヒラさせながら、階段を下りていく、悟浄。 悟空は、医者を探しに行くと、出掛けたきり…
「医者が、来たからって、素直に診察させてくれるは、思いませんけどね…」
それは、八戒の危惧のとおりで… せっかく、来たのに、なんて患者だと…
怒りの鉄拳をまともに食らった町医者が、不平不満を叫びつつ、退散したのは、 それから、1時間後のこと……
どうしたらいいと、泣きつく悟空を部屋で大人しく待つように伝え、 八戒は、再び三蔵の部屋の前に立つ。
「…さて、どうしたもんでしょうかね……」
(…多分……今頃は…傷が疼いて、発熱していることでしょう…)
…痛んだ身体を元に戻す為の生理現象…
「…アレだけの傷……つらいと、思うんですけどね…」
ノブを回し、鍵のかかっていないことを確認して、そっと、扉を開ける……

ベッドの上には、あのままの三蔵が、横たわっていた。
「…あまりに予想が当たりすぎて…易者にでもなった気分です…」
切れた口の端の血を拭い、破れたシャツを脱がしても、三蔵が、抵抗することはなかった。
「…相当…熱が高いですね……」
首から肩…腹のいたるところの紫色の痣…
八戒は、小さな気功を作り、痣の前にかざした…
「…いったい、私服で何処へ行っていたんですか?…昇霊銃も……置いたままで……」
宿についてから、妙に落ち着かなかった三蔵。 特に理由も確かめなかった自分を今更ながら、後悔する八戒……
「…んっ…!?……ぁあ………」
額に当てたタオルの冷たさに、身体を震わせる、三蔵…
「何があったかは……聞きませんけど……」
(…傷の手当てくらいは…させて下さいね…?)
白いシャツは、破れ…三蔵の血を吸っている…
「もう、捨てなきゃ、ですね……」
せめて、血を洗い流してから…と、洗面所に立った八戒の視界の隅で何かが光る…
「…………?」
…それは…
小さな石……
薄緑色の石は、何処かで見たことのあるような、色合いで…
そう、 いつも見ている…ような……
「……お前に……やる…」
しげしげと小石を見つめていた八戒に突然かけられた言葉…
「……えっ?」
意識を取り戻したのだろう… 紫暗の瞳が八戒を見つめていた……
「…僕に……?…ですか…?」
「……だから……そうだと……言ってる……!」
プイ、と、壁際に首を巡らせる、瞬間…
三蔵の頬に散ったのは……?
「…あれ?…もしかして……プレゼント、なんてヤツ、ですか?」
八戒の声音は、少し、意地悪く…からかうように……
それでも…いつもなら、返ってくることのない、返事。

「……お前の…誕生日に……」

「………………!?」

染まった首筋を眺めながら
(…悪くない、気分です……)
「……ありがとうございます。三蔵……ぜひ、お礼をしたいのですが…?」
「………?」
「その前に……」
左手に浮かばせた薄緑色の光りが、三蔵の胸元を包む…
「僕で……この傷が、また、痛んだら大変です…治してしまいましょうね?」
「………なっ!?」
傷の熱が、徐々に引き始める。
痛みと熱で意識が混濁から、一転、冷静に自分の置かれている状況を判断するほど…
そして、別の熱が、起こる、身の内で…
衣服は、八戒の手で、すべてを剥ぎ取られていた…
すべてを晒している自分に、上昇を続ける、熱…
疼き始め、自己主張をし始めた…モノ…を隠すように、膝を立てる。
「……………っ……!」
…翡翠の視線が、絡む視線だけで、イカされそうに…なる……
「…もぅ……いい………」
「…ん?…よくないですよ、まだ……途中です……」
微かな嘲笑が、三蔵を不機嫌にさせる…
「……八戒…」
「なんです?」
その、笑いに、すべてを、理解、する。
(……っっ!?…わかってて……コイツ……っ!)
三蔵は、自らの視界を闇にすることで、八戒の視線から逃れようとする…
が、
それは、間違った判断で……らしくない、判断で……
「………………!?」
ふいに、目の上を覆う布の感触……
「……じっとしてて……ください……」
……三蔵は、視界を奪われた…

「は…っ……あっ……ん―…っ…!」

指先が…

八戒の細い指先が、滑る、肌の上を……

三蔵の身体を走る、甘い衝動……

視覚を奪われ、鋭敏になった触覚が、いつも以上の“欲”を覚える…

中途半端にほおっておかれた、熱は…臨界点……

「……三…蔵……」
自身を呼ぶ声にさえ、過剰なくらい、返す、反応……
腰の奥から、湧き上がる痺れが、
背中を伝い、脳へと伝わる……溶けそうな熱と共に……
「っ―ぁ…あ……ぅ……んっ……あぁ………」
後ろに差し込まれた指が、小刻みに震える……
確かな意図をもって……
「あ、はっ…………ん………ぁあぁ……………っ!」
「…いい……ですか……?」
「…ぅ…んっ………なに……を…?」
「……僕を……感じて……下さい……」
「………!?……んぁっ!………っ―――!」
指の代わりの与えられた、八戒の熱が……
三蔵の奥深く……沈み込む……!
(…あ……熱い………っ!)
「……三蔵……?」
きつく閉じた瞼にキスを落としながら、声を噛み殺す、理由を、聞く……
「……った…く………ぁあっ!……てめぇ……容赦……ねぇ……な……」
「……う…んっ…!…はぁ……傷、痛み……ました…か?」
八戒の額に浮かんだ汗が、ツゥっと、頬を伝う……
自分に与えてくれる快感に比例して、流れる…汗……
そんな様を見つめながら、見上げた人は、笑いながら、言った…
「今日は、僕の……誕生日、ですから……」
「……フン………」
それが、精一杯の、抵抗………
「……んぁっ………!……ぁああ………」
大きく突き上げられ、限界を迎えた、身体が、小刻みに震え始めた……
「……三…蔵……三………蔵………」
繰り返す、言葉に、瞼の裏が、白くなる……
弾ける、ように………
その肢体を仰け反らせる………
「……うっ………あっああああああっ―――っ!」
シーツを握り締めた指も、白くなっていった………


「いったい、誰と乱闘、してきたんです?」
まだ、呼吸の整わぬ三蔵に問い掛ける。
「………………」
「……………ま、いいですけどね……だったら、せめて、昇霊銃は持って行ってくださいよ。
たとえ、喧嘩になりそうになっても、こっちに武器があるとわかれば、たいてい………」
「………いやだったんだよ……」
「…えっ?」
(いやに、素直な、答え……ですね?)


『……お前へのプレゼントを買いに行くのに…武器なんて持っていきたくなかったんだよっ!……

お前と瞳と同じ色の石が…お前の…守り石に…なるかと…思って…な…』


思いがけない『理由(わけ)』を聞き出すのには、それから、3日、掛かったのは、八戒の手腕?だろうか……










語りたる 言葉無く

交し合う 瞳無し

睦む 二人

永遠の刻

揺れる 華

薫る 夢

すべては 御身の 中にあり





END