声。
握り締めた拳が、血の気を失っている。
突然、見開かれた瞳には、驚愕の色彩。
「…なん…だよ……ったく……」
気づく、欲望。
寝息を立てている、久保田。
乱れた前髪が、枕の上に、散らばっている…
「……んっ………!!」
背筋を這い上がる、欲に、滑り込ませる、左手…
すでに、十分の熱さを持ったソレは、与えられるべき刺激を求めてた…
「…ふっ………くぅ………………ハァ……」
視線は、隣の久保田に固定したまま、
規則正しい、運動を繰り返す、左手………
「…寝らんないの……?」
「………………!?」
不意打ち………
熱に浮かされた時任の瞳が、こちらを見ている、久保田の視線と絡む…
「…久保……ちゃん……」
上がった息を懸命にこらえても……
開いた唇からは、欲にまみれた、吐息だけ……
「…手伝って……やろうか?」
「…なっ!?………んなこと………」
顔に朱を散らす時任。
毛布の中に潜り込んだ、左手を引き抜く……
「……あっ!!」
痛いくらいの刺激に、漏らす、喘ぎ声……
「いいよ……久保…ちゃん……俺……自分で……」
「…何、言ってんの……一人より…二人…」
間近になる、久保田の匂い……
そのまま、身を任せるように、両手を広げた、時任……
「…俺……おかしいんだ………なんで……こんな……アッ!……」
「何が……おかしいの……?」
「……笑う…なよ?……」
「善処、しましょ…」
「んだよ!…じゃ、言わねぇ…………」
「…言わせる………」
時任の首筋で、遊んでいた唇を滑らす、時任の中心。
「……あぁっ!!」
己の欲望が、濡れた熱い感触に包まれ、撓る背中……
「……やめ……っ!……久保ちゃ…………っっ!!」
爪を立てる、白いシーツの上……
「言いたく、なった……?」
「…意地、わりい……久保ちゃん………」
荒い息の下、精一杯、睨みつける、半開きの瞳……
「……言うよ……言うから………」
久保田の頭を両足で、挟み込み、
ねだる、仕草………
「…ん………了解………」
頭の芯を貫く、光が、意識を飛ばす。
「…久保ちゃん……久保ちゃ……ん……あっああっ――っ!」
少し、爪の伸びた爪先が、乱れたシーツの上を滑って……落ちた……
「で?」
「何が……」
面倒くさそうな答え。
「さっき、言うって言ったじゃない…」
立ち昇る、紫煙。
「…あ?……うん…………」
うつ伏せに寝返り、時任。
「………おかしいんだ…」
「……ん……」
顔を枕に押し付け、くぐもった声。
「………たくて…しょうがない………」
「…何?聞こえ、ない………」
聞き返され、ムッとした声。
「……何度も、言わせんなよっ!」
「だって、ホントに聞こえなかったんだもん」
久保田が、形作る、自分の名前に酔いながら
「…したくて…何回、しても……したくてしたくて、しょうがなくなんのっ!!」
「…おや?そりゃ、ラッキーvv」
「…あ゛??……あのね………」
脱力感。
崩れ落ちる、褥の上。
「……そうですね……薬の『副作用』でしょうね…たぶん………」
「ああ゛っ!?なんだよ!その言い草はっ!!」
「おや?何か、お困りで?」
「…こ、この………っ!モグリのヤブ医者野郎っ!!」
そして、二度目の鵠の笑顔。
「おかしいですね?私の調合は、間違いなかった、筈ですが……」
「グルルルルルルルッ………」
今にも、噛み付きそうな時任。
「こらこら……鵠さんは、餌じゃないんだからね?」
「………!?久保ちゃんまでっ!!」
「……わかりました!」
鵠は、ポン、と手を叩き、告げる。
「これは、いわゆる『発情期』現象ではないかと……」
「はぁぁぁ??…な、なんだよ、それ……」
「…ああ、なーる……だから……」
「って、なんだよっ!!…………!?も、もしかして…
…俺が、動物と同んなじ?って、言いてぇ訳!?なんだよぉ!!それっ!!」
獣人化してしまった、時任の右手。
果たして、ソレに関係が、あるのか……
鵠の薬が、時任の身体に、変化をもたらしたことは、確か。
……薬の成分が、抜けるまで、十日は、かかるかと………
「……ねぇ……久保ちゃん………」
「…………!?ちょっ……ちょっと、たんま!」
「……待てねぇよ……俺………なぁ、しよ……久保…ちゃん……」
end