Sleeping Beauty



「ただいまぁ〜〜時任…?」
誰もいないリビング。
確かな気配を残したソファ。
振り向き、開け放ったベッドルーム。

「時任?」
脚を投げ出し、倒れているのは、同居人……
「……また、寝てんの?」
久保田の手の中のコンビニの袋が、カサカサ 音を立てる。
「…最近、どうしちゃったのさ、時任……」


「鵠さん、あいつ、最近、変、なんすよね」
「変とは?」
「いやね、眠い眠いって、一日、16時間は、寝てる」


覚醒が、訪れたのは、唐突…
「あれ?…久保ちゃん……?」
靄のかかったままの視線が、探す。
そして、気づく、一人の部屋。
「久保ちゃんっ!!」
鋼鉄のドアに体当たりし、春の光の中に、飛び出した……
刺すような陽光に瞳が、焼かれる…
狭まる視界に探し人の姿を求めて…求め……て…
「……何処!?…久保ちゃん!……何処にいんだよっ!!」


「それは、何時頃から……」
「…ん、もう、2週間になるかなぁ……『春眠、暁を覚えず』なんて、言葉じゃないけど、……寝すぎじゃない?……右手……関係、あり?」
「そうですね…診察してみないとはっきりとは、わかりませんが…体質の変化が、起こっているのかも、しれませんね……」
東湖畔の店主は、細い縁の眼鏡をかけ、立ち上がった。
刹那、
「久保ちゃんっ!!」
店のガラス戸が、荒々しく、抉じ開けられた。
「時任……」
息を切らし、額の汗……流れる、先………
「……いた……久保ちゃん………」
途切れ途切れの言葉、届いた先……
「なぁに、やってんのさ、そんなに息、切らして…」
「……………!?」
時任の視線の先、いつもの久保田……
「…な、なんでもねぇよ… …ちょっと、走ってみたかっただけっ!」
「ふぅ…ん……最近、運動不足、だもんね?」
「診察は……後日……ということで、いいですか?」
「あ、すんません…鵠さん。とりあえず、今日のとこは… こいつ、連れて帰ります」
「…はい……また、何かありましたら、 すぐ、連絡、くださいね」
背中に鵠の言葉を受け止めながら、店を出た二人。

「もう、息、整った?」
「……うん…」
歩道の隅の乾いた泥が、風に吹かれて、移動している。 昼時の、商店街は、中年のおばちゃんの声が、響いている。
太陽が……真上から、二人を見ている……
「眠く、ない?」
「あ?…何、それ………」
「だって、最近の時任『眠り姫』なんだもん」
「なんだょぉ!?『姫』って!!」
「あれ?違った??」
「……だって……なんだかしんねぇけど、めっちゃくちゃ、 ねみいんだもん……」
ふてくされて、久保田の隣りから、少し、離れる。
「…なんで、黙って…出てくんだよ……」
言葉の寂しさ…隠す、本当…
「ん……ゴメン……」
並ぶ肩に腕を回し、引き寄せる温もり…

「…いい……俺も考え無しだったし……」
凭れ掛かる温もり…手の中の安心…

「帰ろっか…」
「…うん……」
「……俺らの『家』に……」

爪先で蹴った小石が、何処までも転がっていく…
二人の先に見えるモノ、 二人が見ているモノ、

…Sleeping Beauty…
Please get me up call me …for your kiss……