unexpected




暑い…… ウザい……
………何、してんだ、俺……
俺の後ろ。 三蔵が、真面目に坊主らしい事をしてやがる…
(って、なんで、俺は、それを黙って、見ているんだよっ!)
…悟空もその脇で、大人しく本を読んでいる。
(…まぁ、いつもの事といやぁ、いつもの事だ…)
ここは、三蔵の執務室で、悟空の住んでいる場所で…
(…だから、なんで、俺もここに……?)
「なぁ、三蔵!この字、なんて読むんだ?」
あ〜〜あ、今の三蔵にンな事言ったって…… あれ?
「…ったく…おめぇの頭には、記憶ってモンが無ぇのか?昨日も同じ字を聞いたぞ?」
「へっ?そうだっけ?…ごめん……忘れた!なっ!もういっぺん、教えて?」
なにやら小難しい書類を書きかけていた手を止めて、悟空に文字を教える様が……
(……疲れる……)
ふぅ………
(溜息?…この俺が?)
「…ん?なんだ……まだ、いたのか?」
…こっちを見ずに、ンな事、言うわけね……
ハイハイ、お邪魔虫は、退散しますよ。
「おい、河童……」
くっ…!……そう呼ばれて、返事出来るかっちゅーの…っ!
「…おい………」
聞こえませんね……俺には、沙悟浄って名前があんだよっ!
(…今日の俺は、変だ…)
「で、三蔵が止めるのを振り切って、帰ってきた……」
「……悪かったな……」
「まったく…あなたという人は…とにかく、とばっちりは、ゴメンですから…」
なんだよ?とばっちりって……いいんだよ、もう…な……


「ねぇねぇ、悟浄も行こうっ!」
(……なんだ?これ……)
俺の寝起き顔の前に、嬉々としたバカ猿の顔があるのは何故だ?
「三蔵が、海行くって言うんだ!悟浄も行くだろっ?」
…いやに、断定した言い方しやがんな…
…俺、あんまり、水は、得意じゃないんですけどね…悟空ちゃんよ…
でもって、俺は、ノコノコとこいつらの荷物持ちなんかをしてる……

『ああ、僕は洗濯物が溜まってますから後から行きますよ! こんないい天気、逃したらもったいないですかね?』

なにを、なにが、もったいないって? てめぇの言いてぇことは、お見通しなんだよっ!!
(………肝心な野郎のことは、ゼンゼン、見えねぇんだけどな…)

カンカン照りの太陽の下で、俺は、三蔵の横顔を飽きもせず、見ていた…
あのキツイ紫暗が閉じられた、少し、汗ばんだ、三蔵の横顔を…
辺りには、カワイイおねえちゃんが、いっぱいいるってーのに…
…なんで、俺は、コイツから目が離せねぇ?
「…ったく……捕まっちまってんのかよ……この、オレ様が………」
オレは、自嘲めいた笑いも、オマケで三蔵の横顔に投げつけてやった。
「…ここは、暑いな……バカ、みてぇによ……」
ガキ=悟空が、三蔵に『かまって攻撃』をするのをHi-Liteの煙の向こうに見ながら、 吐き出せない、煙を溜め込んでいた……
なんで……アイツが、特別、なんだ?
…俺の知らない、三蔵を知ってる…からか? 俺より、先に出逢った、からか?

『そんなの、悟浄が、一番良くわかってるんじゃないんですか?』

…お前の言うことは……わかんだよ……何故かな……
「………………?」
(…俺も、欲しいのか?…コレと同じモン……)
音が、消える―― コイツと一緒の時間は……
悟空が……
あのサルは、コイツの『特別』だと、八戒は言ってやがったが… なんで、それで、俺が、遠慮…?
……遠慮か?あの猿に?コイツに…?
「冗談じゃねぇっ!」
「…独り言なら…もう少し、まともな事を言え…」
「…………!?」
(…コイツ……!…狸寝入りかぁ〜?)
汗を拭う仕草に誘われるように、俺は、三蔵にキスをした…
「……何、トチ狂ってやがる…?」
俺を見上げた視線は、動じてやしない……
俺の鼓動だけが、煩せぇ………
その夜、俺は、三蔵を抱いた……
合意?なんだそりゃ…そんなもんじゃねぇ…… ただ、のエゴだ。 俺の。

「……ふっ……あぁ……………っ!」

伸ばした首筋を何度も撫で上げながら、薄い唇が漏らす、喘ぎ声を俺は、飲み干し続けた…
飽きもせず、いつまでも……いつまでも……
三蔵の身体は、俺をなんの衒いもなく、受け止めた…

「……抱くぜ…」

俺のそんな、言葉の切っ先をかわしもせず……
だからだな……
俺は、めちゃくちやに三蔵を刺し貫いた……
望みも懇願もなんだって、受け入れたりせず、 ただ、がむしゃらに、白い肌を掻き抱いた……

「…ご…悟浄………ッ!…いい……加減……」
「……ん?…もう、ギブ?…だけど……許して……やんね…」
「…はぅっ!……あっ…あぁぁ………もう……っ!」
俺は、三蔵が発する、細く長い声を聞きながら、夜の闇の中に身体を埋めていった……

『嫉妬、って言うんじゃないですか?』

涼しい顔で、俺を送った八戒が…背中を押した…

『時には、素直になってみるのも、いいんじゃないかと思いますけど?』

…叶わねぇよ……おめぇには……

見上げた、三蔵の自室の窓。 明かりは、付いている。 手を伸ばせは、簡単に届く、距離の欄干……

「……よぉ、こんばんは……」
「……………………」
(…だから、少しは、反応してみせろって……)
「夜這いに来ましたv」
「……バカか?おめぇ……」
夜着に着替えた、三蔵を見慣れていた筈なのに… ったく……俺は、どうかしちまってるんだ……
コレ以上、先に進めない、なんてな……
「…なにしてる?……入れ……」
「…………………!?」
朱色の帯に手を掛けた三蔵を視界の隅に置きながら、俺は、思いっきり、地面を蹴った…
……金色の光に向かって……

「…で?お前は、この前から、なに、怒ってやがる?」
「……はぁ?」
(…な、なんだよ!こいつはっ!?…お、俺の事を……?)
「……ガキみてぇな真似……してんな……」
「…さっすが、最高僧様ね……なんで、お見通しって訳ね…?」
「…今すぐ、死にてぇのか?…おめぇ…………」
「…ああ……今、すぐにな………一緒に行こうぜ……天国によ………」

……音の無い月 漂う、風
舞い降りる、銀糸
交じり合う、吐息だけが、 今を、支配していく―――

「…お前は、俺が……好きなんだろう?」
喉の奥から聞こえる、三蔵の笑い声に、俺は、もう一度、口付けた……


END

「MAGIC TOUCH」紅亜様へのプレゼントキリリクです。
『無邪気に三蔵に甘える悟空に嫉妬する悟浄』 というリク内容でした。 なかなか、悟空が甘える..という表現が、うまく表せず、こんな形に.. なにとぞ、ご容赦を.. でわ、どうぞ、お受け取りくださいませ... (unexpected=予想外の)
管理人 MITSUKO