「夢喰姫」

〜舞い散るは、想いの欠片〜





あの月が、中天にかかるとき、

愛しい人は、私を迎えに来る。

あの人は、そう言った。

『必ず、迎えに来る…』

だから、私は、待ち続ける。

あなたが撫でてくれたこの黒髪を梳いて、待ちましょう。

この紅色の柘植の櫛と共に……





「鬼女が出る?」
西へ向かう途中、立ち寄った街で聞いた噂。宿屋の主人が話してくれた。
「旅を続けたかったら西の峠は、渡らんほうがいい」
しかし、遠回りをするといってもふた月は無駄足を踏む事になる。三蔵がそんな無駄を許すはずも無く。
「…予定は、変えん」
ほかに3人は、顔を見合わせて、やれやれと、溜息をついた。 この鬼畜最高僧は、自己チュウでいらっしゃる、いつか悟浄の言った言葉を八戒は、思い出していた。
(…今回は……僕達の意見も聞いて欲しかったですねぇ……なんだか、いやな感じがします……)
八戒は隣で食事をしている金色の髪の坊主を盗み見た。 我が道を行く、といった横顔は、不安げな八戒の視線に気づかなかった。





「……おいで、愛しい人。待っていたのです……」
血の匂いのする風が、男の身体に纏わりつく。 甘美な匂いが、全身を弛緩させていく。
男は、目の前の女に愛を感じた。すべてを捧げてもよいと思うほどに。
「お帰りなさい……愛しい、あなた……」
長い黒髪を風に流しながら、紅く濡れた唇から、嗚咽を漏らす。
もう決して、離さないと。 夜の闇の中に溶けたその声は、細く、悲しい声、だった……




「また、出たんだってよ……鬼女が……」
「今度は、誰だい?」
「桶屋の息子だよ。なんでも祝言間近だったそうだ…」
「かわいそうに…じゃあ、また……?」
「ああ……もう、あれじゃ夫婦になる事は、出来んじゃろうな……」
どうして、鬼女に襲われると夫婦になれないのか? 一人、朝の村を散策していた八戒は、立ち話をしている村人に尋ねた。
「そりゃぁ、あんた!心を喰われちまうからだよ」
「心を?」
何故か、襲われる相手は、添い遂げる相手が決まっている男ばかりだという。 外傷は無い。 なのに、男の心は、完全に鬼女のモノになってしまっている。 だから、鬼女は、男の恋する心を喰ってしまうと言われている。
「恋する心……」 これまで八戒と三蔵は、一緒に旅を続け、互いを半身だと認め、何度も情を交わした。 そんな感情に名前をつけるのなら『恋』という事になるのだろうか?
だとしたら、『恋』をしているのは、どちら? この想いは、互いに重なる想いなのか……
そんな漠然とした不安が、消えない八戒。

「たとえ鬼女が出たって、俺達には関係ねぇよな?なんたって、女っ気無しのむさい旅だかんなぁ」
翌朝、西の峠を目指して出立した三蔵一行。 後部座席で、悟浄がうそぶく。
「だよな!!襲われるのは、恋人がいる男だろ??どうみたってここには、そんなヤツ、いねぇし……」
珍しく意見のあった悟空は、嬉々として悟浄の肩を叩く。しかし……
「……でっ!!!」
パカン、と小気味いい音が悟空の頭上で響く。
「な、なんだよっ!!なんで、ぶつんだよっ!!」
「なっんか、てめぇと意見が合うってのは、我慢ならねぇ…」 「んだよ!!わっかんねぇぞ!そんな理由!!」
「ハイハイ、仲の良いのはわかりましたから、ちょっと静かにしてくださいねぇ〜〜」
八戒の忠告など、二人の耳に届くはずも無く…数秒後に昇霊銃の音に鼓膜を震わせる事となる。 半時も走ると眼前に見るからに険しそうな山々が行く手を遮っている。
「西の峠というのは、あそこか…」
山に入り、荒道を登り始めて、すぐ、落葉樹に覆われた小さな祠があった。
「鬼女の魂を静める為に建てられた、と言っていましたが…効き目は無かったようですね…
山道の傾斜は少しずつキツくなり、ジープの速度も落ちてきた。
「大丈夫ですか?」
八戒の気遣いもジープの元気を取り戻してはくれなかった。 ほどなく、ジープは根を上げ、4人は、心臓破りの坂を徒歩で昇ることとなった。
「なぁ、八戒、ジープ、大丈夫か??」
悟空が、心配そうに八戒の腕の中のジープを覗き込む。 「ええ……たぶん、この妖気のせいだと思いますから……」
それは、皆が感じていた圧倒的な妖気。 全身に纏わりつく淫靡な妖気にジープほどでなくとも身体の不調を感じていた。
「おでまし、か……」
悟浄の手に現れた錫丈が空を切る。 手応えは、無い。
「実体は、無し…ってか……」
「やはり……物の怪の類のようです」
八戒が、両手に気を溜め始めた。
「待て…」
そんな八戒を制し、三蔵は、女の前に進んだ。
「三蔵…?」
「……なんか、考え、あんじゃねぇ……その生臭坊主……」
「ええ…」
八戒は、ゆっくりと妖怪との距離を詰めていく三蔵の後姿を見送った。

『…お前が生きて、変わる何かがある』

そう、聞いた事を突然、思い出す。

―変わる?変わったんでしょうか?僕の…何かが……

花喃を失って、生きていく事やめた八戒に三蔵が言い捨てた言葉。 それが何故、今になって… ふいに背筋を這い登る冷たさに身を震わせ、思わず、声に出して名を呼んでいた…
「………三蔵っ!!………」
鬼女の視線が、八戒を認める。 近づく三蔵ではなく、その背後の八戒を…
「…あなた……欲しい…」
薄く透けた肢体が、三蔵に肉体をすり抜け、声を発する。
おいで、と。私と同じ心を持つ青年よ、私のところへと…
八戒の視界が、鬼女の声に満たされる。 それは、あまりに心地よい響きだった。
このまま、身を任せ、流されたいと思うほど… 薄絹のように纏わりついた鬼女の腕が、八戒の首筋を捕らえる。
「さぁ…私の元に……」
そして、それきり、八戒の意識は、消えた……


「あれって、どうよ……」
悟浄が、窓の外を見上げるだけの八戒を見つめ、苦い溜息をついた。
「俺…何があったのか、全然、わかんなかった…」
「ま、お子ちゃまには、わかんねぇ事だからな!」
悟浄の揶揄する言葉も落ち込んだ悟空には、効果は無かった。
「三蔵…何処行ったんだろ……」



「「「八戒っ!?」」」

三人が名前を呼んだときにはすでに八戒の心は、この世を離れていた。
「らしくねぇ…なんで、ああまで簡単に鬼女の術中にハマっちまったんだ?」
それは、一瞬の出来事。 三蔵の身体をすり抜けた鬼女は、真っ直ぐ八戒へ飛んだ。
立ち尽くすままの八戒は、そのまま、すべての妖気をその身の内に引き入れてしまった。 ゆっくりと倒れ落ちた八戒の瞳は、この世のすべてを映さない虚の瞳に変わっていた。
「で、三蔵様はどちらにいらっしゃったんだ?」
「……ん……なんか調べるって朝早く出てった…俺達には絶対付いて来るなって…」
「ふぅん……」
(…原因は、自分にあり、ってかな…?)
ま、任せましょうと、三本目の煙草に火を点けた。 早朝の村を抜けた三蔵は、昨日の祠の前に立っていた。 奉った筈の女は、ソコには居ない。では、何処に?
あの時――
動けなかった、と、三蔵は臍を噛んだ。 振り返った三蔵の脳裏に飛び込んで来たあまりに淫猥な情景。 身体の芯を震わす八戒の表情に指一本、動かす事が出来なかったのだ。
あの表情― 自分の腕の中でも見せた事の無い、―表情―。
「…あれが、アイツの本当の顔、だというのか…?」
限りなく求め続ける欲望がソコにはあった。
「俺にアイツを受け止める事が出来ていたのか…?」
背筋を這い登る冷たい不安に知らずのうちに三蔵の身体は、震えていた。
「あの女は、八戒の『内』に居る……!」
封を施した扉を躊躇無く、引き破る。 中にあったのは、紅色の櫛。
「これが、本性か…」
薄汚れた祠の中で時を経ても色あせない櫛の色。 思い切れない男への思いを叫んでいるかのような色に三蔵は吐き気を覚えた。 生者としての身体が朽ち果てて尚、求め続ける想いとは? 何故にそこまで女を狂わせねばならなかったのか? 人間の飽く事の無い強欲さがそうさせるのか、 いや…純なる想いだからこそ裏切られた果てに、狂気を呼ぶのか?
「何処までも厄介な生き物だぜ、人間は……」
選んだ道が、正しいなどとは、誰にも問えない。 結末を知るまで、判断などつきはしない。 だが、今を信じなければ、今が崩れる、むなしいだけの存在になる。 今この一瞬でさえ、迷いながら進む。 それしか、生きていく術が無い。人間の心は、万能では無い。 では、神は正しいのか?神の心は、万能なのか? 否、神は、ただ、『見届けるだけ』 諸行無常、すべては、変わってゆく………




『…もう、出掛けられてしまうのですか?』
『ああ…すまない…庄屋の頼みでは、断れぬ』
『…あの月が、中天にかかる日。私達の祝言の日。それまでには…』
『ああ、戻る。愛しいお前を待たせたりはしない』
『お待ちしています…あなたが戻る日を…』
『…愛しているよ、お前だけだ……』
――あぁ…私の心に繰り返されるあの人の言葉。 愛していると、何度もこの心に呼びかけてくれたのに… どうして、戻って来てはくれないのですか? あぁ、口惜しや…
すでにあなたが愛したこの身は朽ち落ちて久しい… なのにこの肌を刺すような痛みは、何故? あなたが、いないから…
二人で永遠を誓ったのに…… 寒い…寒いのです…… あなたが……欲しい………


十三年前、祝言を間近に控えた男女がいた。 二人は、貧しい家の出ではあったが、互いを想い合う姿は、 周りの者達をも幸福な気持ちにさせるほどであった。 幼い頃から共に過ごし、娘の成人と共に夫婦になる約束を交わす。 しかし、男には、秘めた願望があった。 そして、その願いが叶う千載一遇のチャンスが巡って来た。 物売りに出た城下町で鼻緒が切れ立ち往生していた娘。 それが、庄屋の一人娘だったのだ。 庄屋の娘は助けてくれた男に一目で恋に落ちた。 男に許婚がいると知って尚、男を欲し、我を通した。 町一番の庄屋の娘に見込まれ、男の心は、揺らいだ。
男の秘めた願望…それは、貧乏な暮らしから一刻も早く抜け出したい、という事。 幼馴染の娘との縁談は、成り行きであったとさえ、想い始めた。 数刻前までは、隣に座る娘をあんなにも愛しいと思っていたことなどすでに忘却の彼方であった。 幼い頃よりの願い、贅の限りを尽くした生活が目の前で手を拱いている。 何故にこのチャンスを逃す事があろうか? 男は、娘に『嘘』をついた。 自らの親にも同じ嘘をつき、男は村を出た。
そして、それきり、男が娘の元に戻ることは無かった。 その後、残された娘がどんな末路をとったのか、誰も知らなかった。
ただ、今、三蔵達の目の前に居るのは、その娘である事は間違いない。 死して尚、身勝手に自分を捨てた男を求め続ける、哀れな女…





「…お前達は、来るな……」
その日の遅く、宿に戻った三蔵は悟浄、悟空にそれだけを言い捨てると 木偶人形に成り果てた八戒を連れ、外へ出た。
「へいへい……お戻りは何時頃で…?」
「煩い……」
「おお、怖…ご機嫌斜め、っすねぇ……」
「…三蔵………」
二人の険悪な空気を読めないまま、悟空が情けない声を出す。
「…お前も黙って寝てろ…………」
「……う゛っ……」
にべもなく言われ、黙り込む悟空。
「すぐ、戻る…」
続いた言葉はらしくないほどの弱々しさ。
「自信ねぇのか…?」
悟浄の言葉が追い討ちをかける。
「……………ッ!!」
背中が、一瞬、震える……
「俺は、あんたらの事に口を出すつもりはねぇけど、100%の自信がないんなら、やめときな。 そんなあんたには、八戒は、取り戻せねぇ…わかってんだろ…?」
三蔵は、振り向かぬまま、
「河童の戯言なんぞ、聞く耳もたん」
そして、扉は、静かに閉じられた。 小さな声で、自分の名を呼ぶ、八戒と共に。
三蔵は、鬼女と対峙していた。 ふらりと、 八戒が鬼女に向かって歩き出した。
「八戒!!」
空ろな瞳の八戒をどんなに呼んでもその翡翠の瞳に三蔵が映ることは無かった。 目の前にいる人の姿だけを探して、見えない場所を見続けている。 愛を知ってしまってから、脆くなった部分。 鬼女は、そんな暖かい場所を求めて、男の心を喰らい続けた。 戻って来ない男を思って冷たくなってしまった心を暖めるように…
『どうして……どうしてあの人は、戻って来ない?私は……待っているのに… ずっとあの人だけを……』
「お前の待っている男は、すでにこの世にはいない」
『……嘘など私には、通用しないぞ?』
「嘘を信じているのは、お前じゃないのか?」
『……………!?』
「お前は知っていた筈だ。男が、他の女と夫婦になった事を。お前を捨てて行った事を……」
『…………っ……!!』
「いい加減、諦めろ……」
『……聞かぬ……聞かぬっ!そんな嘘は、聞かぬっ!! そなたは、ここにいる男を返して欲しいだけなのだろう?だから、そんな嘘を……』
「……チッ……!」
『この男の心は、美味じゃった……お前への想いが溢れていたぞ? わらわに心を喰われながらもお前の名前を叫び続けておったわ!』
「………………!!」
『今、この男の目には、お前しか映っておらぬ。だが…現実のお前ではない。 この男が作り出した夢の中のお前だ。どうじゃ、くやしいか?取り戻したいか?この、男を……』
切なげな視線を宙に漂わせ、指を噛む八戒の唇から、繰り返し零れる名前……
答えられるのは、自分だけの筈……なのに、今は、八戒の呼ぶ名前に嫉妬をする。
ギリギリと、 唇を噛み締め、切れた皮膚から流れる血を薄桃色の舌で舐めとる。
鉄の苦い味が、口の中に広がる。
「……戻って来い……八戒、お前の居る場所は……ここだ………」
仰臥する八戒に覆いかぶさるように唇を交わす。
自身の心を流し込むように、深く交わす……
『無駄じゃ!!貴様が何をしようともな!!』
女の高笑いが、山肌に木霊する。 それは、悲しみの嗚咽にも、聞こえた……

――戻って来い…お前を受け止めるのは、俺だ… あの時見た、淫猥な表情。 アレが、八戒の中にあるとしてもそれを寄こせと言ったのは、自分だ。 すべてを見せろと、
…生きろ、と。
八戒をこの世に繋ぎとめたのは自分。 何度、情を交わしても充足されぬ気持ちを抱き続けていたのは、自分だけではなかったのだ。 八戒の求めるモノを与えようとしなかったのは、自分だと。 求め、求め続けて、充足する、本当の八戒が見たい、三蔵は心から欲した。
すべてを知りたいと、八戒のすべてを。
「…間に合ってくれ………!!」
服の合わせ目から差し入れた手を荒い仕草で弄り始める。 ぴくりと、 八戒の肢体が反応する。三蔵の体温、すべてを覚えた、その素肌が… 辿る、感覚は、八戒の肌に熱を点す。
「…うっ……ぁあぁ……」
罅割れた唇から、嗚咽が漏れる…

――来い、俺の中に…
揺れる
揺らぐ
想いの果て
貪欲な想いが、互いを壊すとも 求め続ける
それが己の欲望だから
誰にも邪魔をさせはしない
己の想いだから
欲しい、
欲しいのだ
お前だけが
お前だけが いればいい
ただ、それだけだ
お前を感じ お前に触れていられたら…
それで、いい……
己の想いをこの唇から流し込もう
口の瑞から漏れる想いをこの濡れた舌で舐めとろう
すべてを
お前のすべてを 愛していると今、告げたら…間に合うのか?
お前を手に入れられるのか?
真実のお前を……

「……三…蔵…?」
「…………!?」
ふいに 八戒の瞳に色が戻る。 夢から覚めたばかりの八戒は、ただ、黙って頷いた。
「…すみません……寝坊、しちゃいました……」
「…馬鹿か…………」
金色の光に向かって、伸ばされた腕は、永遠の時間へと受け止められた…

『…お……おのれ……!!何故、私の呪縛が………!』
妖艶な鬼女の姿は、その本性を現わし、二人に襲い掛かる。 しかし、すでに鬼女は二人の敵ですらなかった。 三蔵の双肩の経文が輝き始める。
経を読み始めた、唇が、引導を渡す…… 鬼女の断末魔の声が、山肌に、木霊した……

「…僕は、まだ、人間だった頃の気持ちを持っていたんでしょうか…」
「………ん…?」
朝を迎えようとしていた山を登りながら、八戒は誰に問うでもなく、言葉を発した。
「やはり…あなたは…人間で…僕は……妖怪だ……血に染まった醜い…妖怪……」
「…今更、じゃねぇのか…?」
「…えっ……?」
「それとも……お前は、忘れていた、とでも?」
「…三蔵………」
「……何度も言わせるな………」
「…………」
「…お前が、オマエの過去をどう思っていようが、それは、変えられない事実だ。 アレはオマエにとって、必然だった事だ。それを…オレは、咎めようとも思ってもいない。俺は…」
「…三……蔵…」
「……俺は…今のお前に……近くに居て欲しいと………」
「……え…っと……三蔵…?」
今なんと、おっしゃいました??
などと、ふざけた顔で、八戒が首を傾げる。
「……テメェ……!!死にてぇのか……?」
何故か、怒りに震える三蔵が、昇霊銃を手にしていた。
「ええっとぉ〜〜〜っ!!それって……マジ、死んじゃいますぅ〜〜っ!!」
降参ポーズで、両手を頭上に挙げたのも、時すでに遅く……
「何べんも言わせるなと云っただろーがっ!!」
前を見たままの三蔵の肩がふるふると震え始める。カチリと安全装置が外され…
「……なんだ……自分で言った事に照れているんですね??」
唐突に語尾にハートマークがつきそうな勢いで、八戒は三蔵の背中を抱いた。
「……………っ!?!?」
地雷を踏んだ、八戒だった……






「なぁなぁ、なんで八戒の顔、そんなに腫れてんの??あの鬼女にやられた?」
能天気に問う悟空に
「いえ……ある意味、鬼女より手強い相手、かもしれません…… 出逢ったら、最後ですよぉ〜〜気をつけてくださいねぇ……悟空…」
「…うっ……!!そ、その顔で、そんな事言われたら…こ、怖ぇ〜〜っ!!」
「てめぇら……ナニ、漫才こいてる……?」
「「………………!?」」
「……その手強いってヤツ………誰の事……だぁ〜〜っ!?」
「「ご、ごめんなさぁ〜〜い!!」」


―長い、夢を見ていた。
とても魅惑的な… 醒めたくない、夢だった……
だけど……違った…
僕が欲しいのは、思い通りになるあなたじゃない …
我侭で 自己満足主義で 容赦も無く、銃を放って…
…人の心なんて……
人の心を……優しく包む、あなたで……
僕の腕の中で、温度を変える、あなたが…
…あなたが、好きです…
この世の誰より…
だから…もう、決して、離れません……
あなたの傍を…
本気の僕を……
見てください…………





そして、古びた祠に、二つに裂けた紅色の柘植の櫛が、再び、封印された。
もう、二度と、この世に戻って来ぬように、 想いを込めて…………



end