夢と現実の狭間





どうしてこんなことになってんのか…今は、考えたくねぇ……

…俺の上の熱さが、あんまり気持ちいいから…考える事は、後回しだ…

…たとえ「明日」っていう時間をコイツと迎えられなくなったとしても…

「…し…新川……っ」

…だけど………熱い…熱すぎる…身体の奥まで火傷しそうだ…

「…るせっ…抵抗、してんじゃねぇ……っ」

噛み付くようなキスが降りてくる。きついウォッカの香りがする…

触れたいと切に願っていたコイツの唇…嬉しいと、素直な気持ちが、する…

…だけど…コイツが俺を見て…いない…それでも…それでも…俺は…

「もっと…もっと…強く抱けよっ」

「……俺が本気出したら…おめぇ…壊れんぞ…?」

「…いいぜ…壊せよ……それこそ本望だ…」



夕べ…久しぶりに新川が俺の家に来た。
「きっちりダチにしろ」俺はそう自分に言い聞かせることでコイツへの気持ちを止めた。
好きな気持ちを完全に消した訳じゃない。いまさらこの気持ちを無かったことにはできねぇ…
この気持ちを抱いたまま、生きていくのも悪くねぇって思ったからだ。

なのに…酩酊していたコイツは、部屋に上がりこむなり、黙って…泣いていた…
何が、コイツをこんなにしたのか、容易に想像がついた。

綺麗事で終わるはずが無かった…新川を抱いたあの日から…
何度、込みあげてくる欲望を女の身体で紛らわしたか…

…違う…新川はこんな顔はしねぇ…挑むような顔で…俺を誘う…こんな柔らかい身体は違う…
手に余る腕の太さや引き締まった脚が心地よくて…違う…何もかも、違いすぎる……っ

…女を抱きながら…俺は…新川に抱かれていた……


そんな今更な葛藤をしいる俺の前になにも無かったようにして現れたコイツを…
嬉しいと、思ってしまった自分がいた…
だから…誘った…今なら俺にでもどうにか出来る…

悪魔の囁き、ってヤツか…笑える…
だけど十中八九、跳ね除けられると思っていた俺の手は、あっさり、コイツに絡め取られた…

「…んぅっ……」

痛いぐらいに胸元を吸い上げられ、その痛みにまた、欲情する…俺を求めるコイツの指に唇に…

「…は……ぁ……」

新川の苦しげな息が耳元に流れこむ…それが俺には『鷹秋』と聞こえた…
喧嘩、したのか…それ以上の何か、あったのか…コイツがこんなに自分を狂わせたのは見たことねぇ…

「…おい……」

「……?」

「余裕、だな…まだ他の事…考えられんなんてよ……」

「…新川……」

「お前…俺に抱かれたかったんだろ?そんな顔してどうしたい…?」

…身体が震えるほどの艶を含んだ声で俺を追い詰めてくる…何も考えるな、ただ、自分の欲望だけを考えろと…

「…そっちこそ…余計な事…考えてんじゃねぇ……いつもと勝手が違って…動き、鈍くなってんじゃねぇ?
…全然感じねぇんだよっ」

「…剣崎……」

「壊れるまで…抱けっ言ったんだぜ…?俺は……」

「…フッ……じゃ…望みどおり…に…」

ぐいと両脚を限界まで広げられ、俺の意思とは真逆に張り詰めているモノを咥えた…
熱く濡れた咥内に包まれて俺は…あっけなく、果てた…

「…口ばっかじゃねぇか……」

見下ろした新川は流れ落ちる白い液体を造作も無く拳で拭い取り、残りを嚥下した。
厭らしいほどゆっくりと上下した喉元を見つめているうちにまた、俺は張り詰めだす…

「…上等だ……」

指を2本立て、舐め濡らす…朱い舌が音を立て、指を光らす様に…俺は…

「…新……川…もう…俺……」

「…焦るなって……もう…少し…」

新川の唾液で濡れた指先が、俺の口の中に侵入してくる。夢中でしゃぶる…

「…もっと…濡らしな……てめぇが痛くねぇように…な……」

俺の理性もここまでだった…新川は充分に濡れた指をゆっくり中に挿れてきた…
初めて受け入れた異物に痛みと圧迫感を感じる…

「…んっ……んんっ…」

「以外と……」

「…あっ……な…なん…だよ…?」

「…そんな…顔すっと…いいな……イケるぜ…」

「なんだ…それ……っ…つっ……」

一気に奥まで突き入れられ掻き回すように動く指先…違和感が強くなって…
その感覚から逃れたいという本能が身体を跳ね上げる…
が、瞬間だ…
心臓の鼓動を急かされるような感覚に襲われる…
それは間違いない『快感』だった…そんな俺の反応を見て取った新川は執拗に指先を立ててくる…

「…お……おい…待て…よっ」

「…待てネェ…な……そんな声、出されちゃ……」

抗議を塞ぐように深く唇を交わらせてくる…聞いたことがある…
男にはイイとこがある、って事を…それを自分の身で理解した…それが…

(…こんなにも…てめぇを抑えられねぇなんて……っ)

声を封じられ、行き場を失った快感が一点に集中する。限界ぎりぎり…

ふいに指を抜かれ、感覚が宙に投げ出される。

「……あ…」

「…そんな不満そうな顔、すんな…もっと、ヨクしてやるから…」

するりと下半身に伸ばされた手が俺のソコを撫で上げる…
汗ばんだ新川の手の平が俺の皮膚を擦り上げるたび、意識しね…ぇ声が、
自分が出してるなんて信じらんねぇ声が見慣れた部屋に響く。息が、せり上がる…

「…ん……あぁ……も…う…」

二度目の射精…心臓がヤバイくらい…大きい音を立てている…
吐き出したモノを手に握りこみ、そのまま…後ろへ塗り込められる…もう一度、指が入ってくる…

「…力、抜いとけ……」

押し当てられたのは、コイツの昂ぶりで…俺は身震いした…
射精した後の脱力感でいい具合に力を抜けた身体を一気に刺し貫いた……

「……あっ……うんっっ」

指なんかと比べものにもなんねぇ質量が中から俺を押し開ける…
痛みが…再び俺を犯す…だが、それと同じぐれぇ…いや…途中からは、快感の方が力を誇示するように
俺を何処までも犯し続けていた…

「……あうっ……新…川…いや……だ……んっ」

自分で自分を制御できねぇ…俺の中に残っていたちっぽけなプライドが崩れ落ちた…
もう、コイツが与えてくれる快感だけしか追えなくなる…
もっと深く、もっと感じさせてくれ…お前の…すべてが…欲しい……
際限なく、貪欲になる俺の欲求。終わりが無い。
もう、二人で笑える明日が無くなったというのに…ただ、刹那の時間に囚われていたかった…

「……剣崎…………」

確かに…聞いた…コイツが果てる瞬間、俺の名前を…

…笑える……そう、思い込みかったのか…?あの時間は、自分が自分じゃ無かったってのに…










「…今…何時だ……?」

喉が渇いて眼を覚ました…

「…痛っ……」

乾きすぎた唇が裂けて血が流れる。舌先で傷口を舐めると鉄の味がする。
身体の奥に残る、アイツの感覚…腰のだるさと鈍痛…確かに俺は新川に抱かれた…

「…俺を抱いたのか…?アイツは……っ」

意識を失う前には隣にあった温もりがもう、無くなっていた。
薄暗い部屋はいつもの時間を取り戻そうと必死に時間を進めていた。

「…ちくしょう………ちく………しょ……」

また、日常が還ってくる。だが、俺と新川の間にあの時間は、戻らない…
自己防衛の為に誓った壁が、透けて、熔けちまった……





…人を好きになんて…もう、ならねぇ………




End